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第二話

「こちらの部屋になります。短い間ではありましょうが、どうぞご自分の部屋としてお過ごしください」


「は、はい。ありがとうございます」


 メイドさんに連れられた部屋はホテルの一室みたいな部屋だった。どう考えても僕一人で過ごすような部屋じゃないよ、家族で過ごすような部屋だよこれ。自分の部屋はこの部屋の二割くらいしかないよ。


「では夕飯時にまたお呼びいたしますのでごゆるりと。シャワー室はそちら、お手洗いはそちらにございます。そちらには着替えが入っておりますので、お好きなものをお選びください。それでは失礼いたします」


「……」


 ぽかんとしているうちにメイドさんはいなくなってしまった。とりあえずどうしよう。さっぱりするためにシャワーでも浴びようかな。


「……綺麗な服」


 シャワー室へ行く前に着替えだけ準備しようと思ったら綺麗な服が出てきた。どうしよう。着ないわけにはいかないんだけど、服を着るというよりも服に着られるような感じになりそうなんだけど。


「と、とりあえずシャワー浴びよう。うんそうしよう」


 広げてみたら中世の貴族みたいな服が出てきた。よくしらないけどそれっぽいのだった。絶対似合わない。うん、熱いお湯を浴びて忘れよう。


 現実逃避にしか過ぎないけど知らない。そういえばいつくらいに夕飯になるんだろう? どんな夕飯なのかなー。きっと美味しいものが出てくるんだろうなぁ。


「……マナーとか僕わかんないよ?」


 そ、それも考えるのはあとあと! ダメだ変に緊張しちゃってる。混乱してる。


 今は僕一人しかこの部屋にいないんだから落ち着こう。本当に落ち着こうそのためにシャワーを浴びよう。あ、湯船はないのか……残念。お湯を張って浸かる文化はないのだろうか……


「あー気持ちいい……」


 着替えの準備なんかもそこそこにシャワーを浴びる。熱いお湯がとても気持ちがいい。いろいろと悪い考えが流されていくようだ。


「ふぅ……」


 シャワーを浴びた後は貴族風の服に着替えてソファに腰掛ける。鏡を見たけど僕みたいな男子としては小さめの身長のせいもあるし、日本人特有の童顔も相まってはっきり言って似合ってない。まるで子供が背伸びをしているかのようだ。


「これでも十七歳なんだけどなぁ……」


 もうじき高校も卒業で大学生となるところだったけど、身長は平均のはるか下で、百六十センチすらない。客観的に見ても中学生に見える。


「あ、なんか落ち込む」


 夕飯までやることがないせいか独り言も多いし。なんか寂しい人みたい。自分で言っていて悲しくなってくる。早く夕飯にならないかな。正直この恰好をアーリアさんたちに見られたくない気持ちもあるけど……


「ハルキ様」


「あ、はい。大丈夫ですよ」


 と、考えていたらノックの音が響き、メイドさんの声が聞こえた。


「失礼いたします。お食事の準備が整いましたのでご一緒に来ていただいてもよろしいですか?」


「大丈夫です」


 部屋を出て再びメイドさんについていく。それにしてもこの館広いなぁ。時々他のメイドさんを見かけるくらいであんまり人を見かけないんだけど……アーリアさんの弟子の人たちが住む館だって聞いたけど、一回も見てない。


「こちらになります」


「ハルキさん、お待ちしてました」


 大きい部屋に入ると席に案内された。め、目の前の席にアーリアさんがいるのが非常に気になる。相変わらず可愛らしい微笑を浮かべているのでまた緊張してしまう。


「あの、僕マナーとか何も知らないんだけど……」


 当然のように僕やアーリアさん以外にも数人が席に座っている。みんな若い。この人たちがお弟子さんたち?


「ふふ、お気になさらなくても大丈夫ですよ。私たちは貴族というわけでもありませんから決まった形があるわけでもありませんしね。それと、私たち以外の者はみな、ここに来てから日の浅い弟子を集めました。歳も近いでしょうからお食事後にでもゆっくりと話してみるといいでしょう。それでは皆様はいただきましょう」


『始祖に感謝を。そしていただきます』


「い、いただきます」


 よくわからない挨拶は気にしないことにしよう。とりあえずは目の前の食事に集中しよう。まずはこのスープを……ポタージュかな。うん、すごく美味しい。


 次にはこの魚料理を……うんうん。これも美味しい。何の魚なのかはまったくわかんないけど異世界だから仕方ないよね。


「ふふふ……」


「ふぇ?」


 色々な料理を楽しんでいると唐突に笑い声聞こえた。え、っと。僕何かした? みんなが僕の方を見ている。


「ふふ、ごめんなさい。貴方があまりに美味しそうに食べるのがなんだかおかしくって」


 アーリアさんの左側に座っている女の子に笑われた。いや、笑いをこらえているのは他の人もだし、アーリアさんもなんだけど。嫌な感じのする笑い方じゃないけど、なんかすごく恥ずかしい!


「えっと、あの……」


 あうあう。顔が赤くなるのがわかる。


「あら、ダメですよフィーナさん。あまりハルキさんをからかっては」


 笑いながらそんなこと言っても説得力がないよアーリアさん!


「ごめんなさい、ハルキさん。なんだか貴方が可愛らしくって。男の人に言うような言葉ではないのですけど」


 フィーナさんと呼ばれた女の子が僕に謝ってきた。でも笑ってるからその効果はきっとないと思う。そして可愛いと言われても嬉しくありません。


「そうだね。姉さんは男心がわかってないよ。男は可愛いよりも格好いいと言われた方が嬉しいに決まっている」


「あら、セント。そのくらいは私もわかっていますよ? ですがハルキさんはなんだか可愛らしい方じゃありませんか」


 セントさんと呼ばれた……男の子? 女の子? あれどっちだろ。どっちとも見える。服装は男っぽいけど、こっちの服装はよくわかんないからどっちともとれる。とにかくセントさんはそういう風にフィーナさんに言ってみていたけど、フィーナさんはまたしても僕のことを可愛らしいなんて……はぁ……。


「うんうん。なんか弟と妹のことを思い出してうるっと来ちゃったよー」


「しかしその身に秘める魔力は本物のようだがな」


「たしかにー。武術の技能はどうだろうねー。気になるなぁー」


 なんか僕が笑い声に反応してからいきなり賑やかになってしまった。今のうちに食べよう。せっかくの美味しいご飯だから残したらもったいないし。


「はい。皆さんまだお食事の最中ですよ? 騒ぐのは食べ終わってからにしましょうね?」


 パン、と、手を叩く音とアーリアさんの声が響き、一気に静かになる。しかしその雰囲気は決して悪いものになってしまった、などということはない。基本的にみんな笑顔だし……笑顔でこっち見てるしね! 気にしないで食べてしまえ!


「ご、ご馳走様でした」


 食べ終わり! 美味しかったなぁ。


「ふふ、ご満足いただけたようでなによりです」


「アーリア様。食事は終わりましたし、ハルキさんと話しても問題ないですよね?」


「もちろんです。ですがあまりハルキさんの負担にならないようにお願いしますね? 私は明日の準備もありますので、先に失礼させていただきます」


 アーリアさんはそう言って退出していった。明日の準備って何だろう? 僕に関することかな?


「それじゃハルキ君、お話しよっか!」


 と考える間もなくフィーナさんがニコニコ顔で僕に近寄ってきた。というか呼び方変わってるし、なんか砕けた話し方になってる。やっぱりアーリアさんは偉い人ってことなのかな。いや、アーリアさんがいるときでも砕けた話し方してる人、いたけど。


「えっと、フィーナさんでしたよね?」


「あはは! そんな堅い話し方じゃなくても大丈夫だよ! そっ、私はフィーナ・クリステラ。フィーナでいいよ!」


「あ、僕はハルキ・サヤマ。よろしく、フィーナさん」


「うんうん、よろしくねハルキ君!」


 げ、元気な娘だなぁ。


「んでもってこっちが」


「セント・クリステラ。一応この姉の妹にあたるね。よろしく、ハルキ」


「うん、よろしくセントさん」


 あ、妹ってことは女の子だったんだ。ということは服装はやっぱり僕が無知だっただけってことだね。でも可愛いと言うよりは凛々しいが合いそうな……


「ちなみにだがね、ハルキ。君が可愛いと言われるのを良く思わないように、私は恰好いいだの、凛々しいだのと言われるのは好ましく思っていないのだよ?」


「ご、ごめんなさい……」


 か、考えが読まれた……。でも確かに失礼だよな。僕自身が嫌と思っていることと同じことなのに。


「わかってもらえればいいさ」


「セントってばハルキ君が可愛いからって嫉妬しなくてもいいのに。凛々しくて年下の女の子に人気なんだから」


 ハルキ君は年上の女の子に好かれそうだよねーなんて言っている。


「……ハルキ」


「うん、セントさん」


ガシッ。そんな音が聞こえるかのようにセントさんと握手を交わした。フィーナさんは笑っているが僕たちはおそらく笑っていないだろう。


「君とは仲良くなれそうだ」


「僕も同感」


 可愛い扱いは嫌だけど、さっそく友達ができたので嬉しい。これからも頑張っていけそうだ!


「え、私は? ねぇねぇ二人とも私はー!?」


「「知らない」」


 そのあとは他の人たちとも軽く挨拶をかわし、メイドさんにつれられて部屋に戻った。まずはこの館の道を覚えるところからかもしれない。


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