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プロローグ

「んん……」


 身体が痛い。なんか悪夢を見ていたような気がする……。そのせいかな、この身体の痛みは。


「夢ではありませんよ?」


「……っ!」


 唐突に声をかけられた。ここ、僕の部屋のは……ず……?


「どこここ!?」


 自分の部屋どころか何もない真っ白な世界だった。まだ夢の続きでも見てるの!? うぅ……悪夢に続いてこんな夢を見るなんて、僕何かしたのかな。神様は僕のこと嫌いなのかな?


「ですから夢ではありませんよ。それに私は貴方のことを嫌ってなどいませんよ」


「……あの、一つずついいですか?」


「どうぞ。落ち着いてゆっくり話してくださって結構ですよ」


 目の前には綺麗な女性がいた。落ち着いていいと言うのでゆっくり深呼吸をしてからひとつ。


「ここ、どこですか?」


「死後の世界です。転生の間、断罪の間、時空の狭間、天国と地獄の境目。いろいろと呼び名はありますのでお好きな解釈の仕方で構いませんよ?」


「……」


 一つ目の質問の段階で余計に訳が分からなくなった。死後の世界って、僕は死んだの?


「……ふ、二つ目です。僕は死んだんですか? さっきのことは夢じゃなくって、現実、なんですか?」


 今僕は顔面蒼白で震えていることだろう。この後の女性の言葉はもうわかってる。感覚でわかってしまっている。


「はい。貴方は死んでしまっています。先ほどの出来事は夢でありません。貴方は確かに交通事故の被害者であり、交通事故が原因でなくなっています」


 ……夢、だと思っていた出来事。朝寝坊をしてしまい慌てて学校へ向かっていたところを信号無視の車が僕に向かって突っ込んできたんだ。その時の痛みは特になかった。でも今痛みを感じるってことは最初から現実だと身体は認めていたのだろうか。心が逃げていただけで。


「次ですが、貴女は誰ですか?」


 質問を続けよう。おそらくこの人は……


「位置づけとしては女神、となります。貴方の考えているとおりですね。あ、先ほども言いましたが、私は貴方のことを嫌ってはおりませんよ?」


 やっぱり神様だった。さっきの質問でこの場所は転生の間とも呼ばれることを言っていた。ということは僕がここにいる理由は……


「転生、するってことですか。僕が」


「貴方がそれを受け入れてくれるのであれば、ですね。私としては転生していただきたいのですが、貴方がそれを是としないのであれば当然断っていただいて構いません」


 強制ではないのか。良かったと思うべきか、どうせ死んでしまっているなら一緒と思うべきか……


「どうして、僕がここに?」


「適性がありましたので」


 適性……。転生することに対してなのか、転生した後のことに対してなのか。


「後者です」


「……そういえば気になってたんですけど、僕の心、読んでますよね?」


「女神ですので」


 答えになっていないと思うんだけど……、うん。気にしないことにしよう。きっと意味ない。


「転生はどこにするのか決まっているんですか? きっと元の地球ということはないと思うんですけど」


「その通りです。元の地球及びその近辺の世界は私が管理者となっておりますが、とある世界の神より適性のある者を呼んでほしいと希望を受けましたのでこの場を設けています」


 また適性。あっちの世界に馴染むことができる人ってことなのかな。


「なんで転生者を希望しているんですか?」


「その世界で近く、魔王が復活する兆しが見られています。それに対抗する存在が欲しいということで適性、勇者としての適性がある貴方をこの場にお呼びしております」


 ま、魔王だって? というか勇者としての適性? そんなもの絶対に僕にはないと思うんだけど……うん、ありえない。


「とはいえ、貴方のみで魔王を討伐してほしいなどということはありません。あちらの世界でも勇者の候補たちが集まっていますから」


「……あくまで勇者候補の一人ってことですか?」


「そうです。別の世界のことですので私からは詳しく伝えることはできませんが、最低でもすでに五人の適性のある者たちが集まっているとのことです」


 僕がそこに行くとすれば六人目以降ということか。多いのか少ないのかよくわかんないけど……


「もちろん、危険です、よね?」


「危険はありますが……それは地球にいるときでも変わりませんよ? 貴方がいた日本は平和であったかもしれませんが、戦争中で命が軽い国もありましたでしょう?」


 た、確かに……。でも二度目の死があり得るっていうのは怖い……


「先ほども申しましたが、断っていただいても構いません。その場合は通常の輪廻転生に向かっていただきます。ゆっくり考えていただいて大丈夫ですよ」


 考えるって言っても……。輪廻転生に向かうってことは僕が消えちゃうってことだよね? それはそれですごく怖いんだけど……


「そちらに関しては大変申し訳なく思っております。通常であればこの場所を使用することなく、意識せずに輪廻転生に向かうことができたわけですから」


 女神さまが頭を下げてきた。ずっと気になってたけど、表情が全く変わってないんですけど。どういう感情なのかさっぱりわからない。


「そうですか? そこまで変わらないとは思っておりませんでしたが。なお先ほども伝えましたが貴方には勇者の適性があります。二度目の死を恐れるのは当然とはいえ、その可能性はそこまで高くないかと。あちらの神の加護もありましょうし」


「加護、ですか?」


「はい、加護です。あちらの神のものですので私はどういったものになるかはわかりませんが、何かしらの加護はあるはずです。多少なりとも死から遠ざかるための要因にはなるでしょう」


 死ににくいのであれば行ってもいいかな……、やっぱり消えるのは怖い。すごく。死ぬのも怖いけど、死なないように努力することは可能なはずだ。


「……転生、しようと思います」


「本当によろしいのですか? 私は助かりますが、もうしばらく考えていただいても大丈夫ですよ? まだそう考える時間があったように思えません」


「……いえ、お願いします。長い時間考えていたとしても、結局死ぬのも、消えるのも怖い。そう考えるだけでどちらも選べないだけです。だったら死なない可能性がある転生を選びます」


「ありがとうございます。貴方に感謝を」


 その言葉と同時に女神さまの後ろに簡素な扉が出現した。あそこから異世界に転生するということだろうか?


「その通りです。あちらには数名の人間が貴方を待っています。その人たちの指示に従っていただければどう動けば良いのか迷うことはないでしょう」


「そうですか……ありがとうございます。それでは行ってきます」


「いってらっしゃいませ。短い間ではありましたが、久しぶりにお話ができて楽しかったですよ。ありがとうございました」


 最後も無表情な女神さまの言葉を背に、僕は扉を開けてくぐった。瞬間光に包まれた。二回目の生が始まる。


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