第五話~母さん、泣かないで~
「母さんにどう説明するか決めた?」
「そんな時間なかった…………というより、忘れてたな。…………どうする?」
どうすると言われても、母さんは優香と同じで倒れちゃうかもしれないし。
いい忘れてたけど、僕たちの両親は共働きで、母さんはレストランのパートで、父さんは介護施設で働いている。
「母さんたちが帰ってくるまで…………あと六時間か」
「お兄ちゃん、お腹へったー」
「そういえば、朝御飯食べてなかったな。なにか作るから待ってろ」
そう言って、兄さんは台所にいってしまった。
兄さんだけだもんね、この中で料理できるのは。
…………そういえば、
「優香は僕が、このままでもいいと思う?」
「えっ?……………………私は少し寂しい、かな」
「寂しい?」
「うん。だって…………男のユー君に会えないから…………」
…………男の僕、か。
このまま戻れずに女でいることを望んでいないのは、僕だけじゃないんだね。
「ありがとう、優香」
そう言ってくれたから僕の不安も少しはなくなった。
…………なんだろう、良い臭いがする。
「勇翔、優香、昼飯できたぞー」
どうやら、お昼ができたみたいだ。
「分かったー。優香、いこ」
「うん!」
僕たちは台所に向かった。
「ごちそうさまでしたっ!!」
美味しかった!
とくに玉子焼きが。
やっぱり兄さんは頼りになるなぁ。
正直、自慢の兄だと思う。
運動神経もいいし、頭も切れるし、家事もできるし、お嫁さんにしたいぐらいだよっ!
…………あっ、お婿さんか。
「ユー君、ご飯残さなかったね」
「元々少食だからかな…………そういえば、味覚って変わってるのかな?」
「身体能力が変わったからな…………色々試してみるか」
そう言って兄さんは、食器を片付け始めた。
「これは?」
「コーヒーだ。ブラックだけどな」
コーヒーのブラックは男の時は飲めた。
飲んでやるっ!!
「……………………おいしい…………」
普通に飲める…………それどころか前より美味しく感じる。
「じゃあ次はこれだ」
次に兄さんが取り出したのは、シュークリーム。
僕は男の時、シュークリームとか、甘いものは好きではなかった。
「頂きます…………おいしい!」
なにこれ!?こんなに美味しかったっけ?
いや、こんなにおいしいとは思わなかった。
「苦いものも大丈夫で、甘いものも大丈夫…………」
「他にも、何かあるの?」
「いや、その二つだけだ。でも、お前が甘いもの食べて喜ぶなんて…………」
僕もそれには驚いた。
他にも変わってることがあるのかも。
…………って、母さんたちに何て言うか考えてないよ!!
時計をみると、
4時50分…………もう帰ってくるじゃないか!
「ただいま~♪」
って、帰ってきた!?
どうしよう、このままじゃ…………
「ただいま~♪…………誰?」
母さんと僕の目があった。
「えーっと…………ないすとぅみーとぅ?」
なにやってるんだ僕は!
なんで、あまり使えない英語を……
「Nice to meet you too . My name is Yuko.」
「って、なんで真面目に英語で答えるんだよ!……………………あっ」
…………普通に突っ込んじゃった。
やばい、母さん怒らないかな?
「あれ?あなた日本語話せるの?」
「あっ、はい…………じゃなくて……」
「日本人?」
「はい、根っからの日本人です…………って、違ーう!」
危うく、母さんのペースに乗せられてしまうところだった。
え?もう乗せられてたじゃないかだって?そういうことは言わない!!
……………………一体僕は、誰に話してるんだろう?
それより、
「母さん、僕だよ」
「母さん?優香のお友達?」
「お母さん、その子ユー君だよ?」
「ユー君って言うの?……………………ユー君!?」
「そうだよ、母さん。僕だよ」
にっこり微笑んで見せる。
「だって…………あなた、女の子じゃ……」
「それが、朝起きたら女の子になってて」
「…………本当に勇翔なの?」
「だから、さっきから…………」
「…………なんで…………ゆうとがっ…………おんなのこにっ…………」
そう言って、母さんが座り込んでいきなり泣き始めた。
ど、どうしよう!?
「か、母さん、泣かないで。僕なら大丈夫だから、泣くのをやめて」
「だって…………ゆうと…………………」
「本当に大丈夫だから」
僕はしゃがんで母さんの顔を覗きこんだ。
あれから一時間。
父さんも帰ってきて、母さんも落ち着いたので、今はリビングで家族会議が開かれていた。
「勇翔、お前が女になってしまったのは………………母さんの血をひいてるからかもしれん」
母さんの血を?
一体どういうこと…………もしかして!
「母さんも男だったんじゃ…………」
「違うわ。私は最初から女よ!!…………でも、私の母さんと妹は違うの…………」
母さんと妹は、って…………お祖母ちゃんと叔母さんが!?
「男…………だったの?」
「15才まではね。まさか、またこんなことが起こるなんてね…………」
この調子じゃ、戻れないだろう。
ならば、
「僕はこれから女として生きていく覚悟は、あるよ」
この事を、僕は受け入れる。
女として…………生きていくことを。
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