過去へ
ようやく暗黒期から脱することができた僕は、『メーゾ』を3人の子供達に任せて過去の『神界』へと来ていた。
それは、暗黒期に生み出してしまったもう一つの人格と別れを告げるため。
過去でなければならない理由は、暗黒期から脱するのがあまりにも遅くなってしまったためだ。
ジュノーの目覚めが近い“今”ではそれを誘発しかねない。過去であれば、多少は互いの繋がりによる影響を弱めることができるだろうという母の勧めもあり、僕はここへ来た。
「でも、心配だなぁ・・・アリシアがいるとはいえ、男共は無茶するからなぁ」
長女のアリシアは創造主に任じられた際に僕の補佐をさせるため母の力を借りて創った娘だ。だから彼女には一番の信頼を寄せている。
だが、他の2人は僕自身の力のみで創ったうえ、長男のゼノンは思いこんだら止まらない質で、次男のアレスはそのゼノンにどうしても逆らえない苦労性だ。どうにも心配になる。
「創るとき、ちゃんとイメージしてやったんだけどなぁ・・・」
一人嘆息して、森の中を進む。
ナルーン王国。
僕が創りあげた『神界』にある人間の国の一つで、呪術が発達している呪術大国。そして、僕が気まぐれに創った“風の民”もこの国に住まわせている。
“風の民”は僕の姿を模して創り出した民で人間というよりも神族に近い力を持っている。そして、ある条件を設けて永遠の命を与えた。
今、僕が向かっているのはその“風の民”が住まう里。
ビュ!
いきなりの攻撃に、僕は慌てて飛び退く。
『・・・お前は!?』
やっと気付いたようにそいつは叫んだ。そう、過去の僕が。
『なぜ、ここに・・・?』
僕はそれに答えてやる。
「・・・お前と決別するためさ。」
ニッと僕が笑うと過去の僕は沈黙する。ふー、と僕は息を吐く。これで過去と同じやりとりができたわけだ。
「さあ・・・ここからだ」
しばらく森の中を進み、もうすぐで“風の民”の里が見えてくるだろう所に差し掛かった時だった。人ならぬ気配に周りを囲まれる。
「ぐるる・・・」
「うー・・・魔物かァ・・・こんな事なら、『魔界』と『神界』を繋げなければ良かった」
今更後悔しても遅い。僕は背に背負っていた剣を抜いて魔物達を牽制するように構える。
「あまり、力を使いたくないからなー」
ポツリと呟く。
が、そんな余裕がいつまでも続くワケが無く。うじゃうじゃと湧いて出てくる魔物達に辟易し、チッと舌打ちする。
「数が多い!・・・ったく、剣じゃ無理か」
仕方なく力を抑えて力ある言葉を解き放つ。
「赤き炎よ、悪しき魂を焼き尽くせ!」
意志を持つ炎が魔物達を包み込み、魔物達は断末魔の叫び声をあげて灰となる。
パチパチパチ・・・
拍手の音が頭上から聞こえ、僕は反射的に身構えた。
「すっごいや、あの数を1人でやっつけちゃうなんて!」
声のする方を見ると、木の太い枝に座りニコニコと微笑む子どもが僕を見下ろしていた。