姉VS弟
「そうは、させないよ。・・・ジュノー」
非情なもう一つの僕の顔。
口調の変化に気付いたジュノーがいぶかしげに僕を見つめる。
「・・・ふぅん。アンタも二つ目の人格を目覚めさせたってワケね?その割にはやけに冷静じゃない」
「それは貴様もだろう?」
「・・・そうね、確かに憎悪に駆られてはいても、頭のどこかで冷静な自分がいる」
納得したように頷いたジュノーに僕は目を細めた。
「封印樹を壊せば母上が死ぬ・・・冷静でいられる貴様はその意味が充分にわかっていると思うが?」
「わかってるわよ?お母様が作った世界全てが崩壊するってことくらいはね。だから言ってるじゃない、全てを壊してやるって」
「“俺”達も死ぬよ。母上が創った命だからな?」
「―――当然ね」
僕の指摘に、冷静さを保っていた姉の表情に焦りと怯えがうかぶ。本人は気付いていないようだが。
「・・・そうか、なら貴様を止めなければならないな」
「アンタごときに、アタシが倒せるとでも?・・・一人前の創製神一族の様な顔をして。元々、アタシの補佐として作られただけのクセに!」
「・・・試してみるか?」
その言葉は、戦いの幕開けとなった。
「闇よ集え!刃となりて、彼の者を切り裂け!!」
ジュノーの力ある言葉と共に闇の刃が僕に向かってくる。それと同時に僕は言の葉を解き放つ。
「光よ集え!」
ジュノーが放った闇を光の膜がのみ込む。
「なッ!?」
驚愕するジュノーに、僕は追い討ちをかける。
「水よ来たれ!流れとなりて、彼の者を飲み込め!」
「くぅ!・・・炎よ!」
同等の力で放たれた水と炎がぶつかり合い、相殺する。
「やるな。・・・俺の水を相殺するなんて」
「ハッ・・・アタシは次代として生まれた!アンタとは出来が違うのよ!」
「確かにそのとおり。では聞こう・・・母上が、何の対策も施さずに貴様の思い通りにされたとでも思っているのか?」
「・・・どういう意味よ?」
僕はそれに答えることなくスッと指をジュノーに向けた。
「・・・我を守護する無よ、彼の者に沈黙を」
「・・・!?」
ジュノーが喉を押さえて驚愕の表情をうかべた。
創製神である母の力が及ぶ範囲であれば、僕達の言葉は強力な力を発することができる。その力を奪う方法はただ一つ。そう、声を消せば良い。
数日前に危機を察していた母から受け取った“無”の力。正式な創造主ではない僕ではその力を100%使いこなすことはできない。
だが、今は数秒間姉を沈黙させることができればそれでいい。彼女もまた正式な創造主ではないが故に、僕の言の葉で抑えこめるからだ。