消滅と産声
「リキュ、“イオ”の寿命は後どれくらいなの?」
「ああ、もって後数年かな・・・だから、今のうちに“アステ”に移住させないと・・・」
問いかけたサントゥーラに、リキューラが答える。
創製神クマリから“イオ”の管理権はすべてリキューラに渡されているため、どのくらいもつのかもリキューラにしかわからないためだ。
「そっかぁ・・・ね、“イオ”の家族に最後の挨拶でもしておく?」
“イオ”の家族、と聞いてリキューラは少し考えるようにしてから首を横に振った。
「いや・・・どうせ記憶を塗り替えるし、会わない」
「“人”の考え方を学ばせるためとはいえ、リキュとコクマ家には悪いことをしたねぇ」
そう言って自嘲するカナンに、リキューラは肩を竦める。
「でも、勉強になりましたから。・・・それに、“イオ”が後数年で消滅するとわかっていなければ、さすがにやらなかったでしょう?」
「まぁね・・・このまま“イオ”が存続できるならやらなかったね」
素直に頷いたカナンに苦笑し、リキューラは肩を竦める。
「だったらカナン様が気にする必要はありませんよ」
淡々と答えるリキューラにコクマ家への未練は一切なかった。もともと、あの家の中に自分の居場所はないように感じていたのも確かだし、記憶を取り戻したせいでもある。
そんなリキューラの心情に気付いているのか、ジュノーは何も言わずにポンポンと彼の頭を撫でた。
「母上とマーテルがいない穴は大きい・・・特に俺は、マーテルから長く離れては暮らせない・・・クマリ様の加護が無かったら、もっと本体が弱ってた・・・」
「まぁ、そうなるように創ったものねぇ・・・マーテルも同じよ、たまに体調崩して“約束の地”で療養してたし」
ジュノーは苦く笑う。
「カナン様、“イオ”から“アステ”への移住を早めます。・・・クマリ様の加護がないマーテルが可哀想だ」
「ああ、それが良いね・・・あの子も早くリキュに会いたいだろうし」
「はい」
***
それからのリキューラの行動は早かった。
マーテルに会いたいという思いの強さのためか、ほんの数日で準備を整えて“イオ”の住人達の記憶を塗り替えて“アステ”へと移動させた。
そのリキューラの仕事の速さは、カナンですら呆れてしまうほどだ。
「マーテルのためとはいえ・・・」
「我が息子ながら・・・立派に叔父からのシスコンの血が・・・」
「うっさいな!!それ、姉さんが言う!?」
痛いところを突かれたカナンががなると、ジュノーはふふん、と得意げに笑う。
「いいわよぉ、おねーちゃんに甘えても」
「・・・・・・調子にノリすぎ。仕事増やすよ」
「い、いやぁねぇ・・・じょ、冗談じゃないのぉ」
「はっはっは・・・大丈夫だよ、姉さんならきっとできる」
「いやいやいや・・・!今でも十分仕事もらってるから!!!」
「ふふふ・・・」
「ちょ、ま・・・んきゃ――――――!!!」
戯れる母と叔父を見て、リキューラはそっとため息をつく。
「あのノリ・・・億単位で生きてるはずなのに・・・ぜんっぜん変わんないんだなぁ」
「そうよねぇ・・・私達も変わんないのかしらねぇ」
「どうだろう・・・?」
億単位の年月を経た自分の姿は、さすがに今の自分達からは想像できないくらいに途方もない先のことだ。
とはいえ、不老の身体を持ち、本体さえ消滅しなければいくらでも再生できる身である創造主が、いずれはたどり着く未来でもある。
「まぁ“アステ”の管理やら何やらをやってれば、あっという間かもしれないわねぇ・・・他にも世界を創るだろうし」
「ああ・・・そうだなぁ・・・」
世界は創造主にとって子供のようなものだ。世界が成長するのを見守るにはそれこそ億単位の時間が必要だ。
その悠久の時間を“本当の家族”とともに過ごせるのならば、あっという間に過ぎていくに違いない。
「お姉様とお兄様は、その時もあんな感じなのかしらねぇ・・・」
「じゃないの?・・・億単位で生きてて“ああ”なんだから、さらに億単位生きても変わんない気がする・・・」
「・・・確かに」
兄と姉の威厳を守りたいところだが、反論の余地もないサントゥーラである。
***
その後“イオ”は消滅し“アステ”は新たな住人を得て産声をあげた。
新たな世界には双子の創造主とその片割れのパートナーが常住し、その世界を大切に護り育てたという。
完
約束の地の物語はこれにて完結となります。
カナンが登場する話は今後も創造主カナンシリーズとして掲載していく予定です♪
ここまでおつきあいくださった皆様、ありがとうございました!
同シリーズの『桜の国のコトノハ使い』の更新も再開したいと思いますので、よろしくお願いいたします!




