少年と少女の逃避行開始
「そうよ・・・あなたの親は“そうやって”あなたを創ったの。だから、手がかりなんて必要ない。いつだって見つけられる。自分の分身みたいなものだからね」
「なんっで・・・捨てたりなんて・・・」
「うん、そうね。でも・・・捨ててないわよ、あなたとあなたの養父母の記憶にブロックをかけただけだもの」
「ブロック・・・?」
「そう。あなたに人間がなんたるかを経験させるための実験のようなものだから、下手に記憶がちゃんとしていると学べないでしょ?」
ことり、と可愛らしく首を傾げて見せるサントゥーラ。
リキューラは動揺でぐわんと身体が揺さぶられたような感覚に陥った。
「実験?・・・学ぶ?」
「ああ、ストップ・・・その先はここでは話せないわ。そろそろ結界も効果が切れちゃうし」
そう言われてハッと周りを見回せば、誰もリキューラとサントゥーラに興味を向けていない。どうやら認識をずらすような結界を張っていたのだと気づく。
「いろいろ詰め込まれて混乱してるでしょう?・・・明日の正午までにはコクマ家も国内に次男の絵姿を配り終えるわ」
「・・・いろんな意味で、コクマ家の影響力はスゴイから・・・」
「そういうコト。というわけで、明日の正午までには国外に出るわよ」
でないと連れ戻されちゃうわ、と軽く脅してくるサントゥーラに引っ張られ、リキューラは抵抗する暇も無く城下町を横断したのだった。
夜になればリキューラの不在に気づいた両親が動き出す。だからこそリキューラも急いでいたのだが、コクマ家の力を甘く見ていたらしい。
あちこちに鎧姿の警邏兵がたたずんでいるのが確認できた。その手に持つ紙切れが何かなんて気づきたくなかったが、おそらくリキューラの絵姿だろう。
「愛されてるわねー」
「・・・やめてくれ。結構、重い・・・」
「まぁ、真実を知っちゃうと、そういう反応かしら」
苦笑いをうかべたリキューラに、サントゥーラは同じように苦笑いをうかべた。
「とても、気を使われていたんだって思ったら・・・スゴイ、キツかった」
「そーねぇ・・・あなたの実の親も、あそこまで可愛がられるとは思ってもいなかったんじゃないかしら?金銭的に余裕のある家庭で次男になるように調節したのも、あなたが苦労しないように、そして、後継の問題が起こらないようにっていう配慮だし」
サントゥーラの言いようにリキューラは唐突に気づいた。
「・・・サラは、俺の親を知ってるのか」
「・・・連れ戻せ、とは言われてない。ただ、記憶のブロックを解いてこいとは言われた」
サントゥーラの方が下の立場ということだろう。明らかに命令されたような雰囲気だ。
「全部思い出した時点で判断して頂戴。・・・全てにおいて、あなたの意見を優先するように言われているわ」
「わかった・・・とりあえず、ゆっくり話が出来る場所に行こう・・・」
「了解」




