真実を知り少年は旅立つ
日没まで後わずかという時、1人の少年が家出をした。
これは計画された家出であり、少年は3年もの月日を身の回りの整理と準備に費やしていた。
そのきっかけは、夜中に目を覚まし水を飲もうと食堂へ足を向けた際、両親の会話をたまたま耳にしてしまったことだった。
両親の会話は少年にとって寝耳に水だった。少年が両親の実の息子ではないということであったり、それが家族(兄や幼い弟妹も含めて)全員が知るところであったということであったり・・・とてもではないがすぐに納得することはできなかった。
その時からだろう。少年が疎外感を感じ、今まで仲の良かった家族であったのに言葉や態度が自分にだけ妙によそよそしく感じられるようになったのは。
気のせいであるとはわかっていた。以前と変わらず母は優しく、父は厳しく、兄は少年の全てを受け入れ、弟妹は少年を慕った。
だが、それも全て少年への同情にしか思えなくなっていた。それでも少年はいつも通りに振る舞った。少年が気づいていないものと思っている家族に“自分は知っているのだ”と大声をあげて言う勇気がなかったからだ。
父は―――ラメド・コクマはこの国の有数な権力者だった。コクマという名を聞けば皆が平伏すほどの。
事実、国王よりも父を恐れる者の方が多かった。しかし、厳格な父は政治の弛みを抑え、時に暴走する王を諌め導き、民からも他の臣達からも、果ては王からさえも信頼され敬愛されてきた。
そんな父のただ一つの隠し事が公になることを良しとしなかった。ということもある。
拾った子どもを己の子どもとして育てることを悪いことだとは思わない。だが、もしそれをネタに他国から突かれたらどうするのだろうか。また、少年の実の親が悪い人間だったら、両親に迷惑がかかるのではないか。
思考は悪い方へ悪い方へと流れていき、最終的に少年が選んだ方法は家族に黙って離れる。という方法だった。
「さよなら・・・」
少年は16年間暮らした屋敷にそう告げ、背を向けた。行く先など決まっていないし、ましてや実の親を探そうという気持ちは不思議と湧かなかった。
少年は小さくまとめた荷を背負い、屋敷のある貴族街からウィンドラー城下町へと歩を進めた。




