謝罪
「ッく・・・“転移”・・・なっ!?」
戦略的撤退を選択したジュノーが力ある言葉を口にするが、その術は発動しない。
「言っただろう?・・・この目でお前の姿を視認することが仕上げだと。・・・この『メーゾ』全体にかけた術式は、『メーゾ』内限定ではあるが、お前の“移動”に関する術を封じる。・・・まさか、これだけ弱った僕がまともにお前の相手をするとでも?」
驚愕するジュノーに告げる。
かなり意地の悪い言い方だが、あれだけ振り回された分のお返しとしては優しい方だ。
そして、自動治癒が発動した瞬間にジュノーの闇の力は僕の“左目”へ吸い込まれていく。
本来の状態ならば“代用できる力”だからといってジュノーから闇の力を“すべて”奪うことはできない。だが、創製神の祝福を受けている僕とその祝福を解除されたジュノーでは、持つ力はともかくとして、存在としての力関係が以前と逆転している。
存在が上の者は下の者よりも容量が大きい。僕の闇の力を完全治癒するためにはジュノーの闇の力をすべて奪わなければ“足りない”のだ。
「あ・・・あぁっ・・・ぐぅ・・・」
苦しげに呻くジュノーの姿が一瞬ブレる。
『おのれぇ・・・よくも!!』
声もダブって聞こえるので暗黒面の人格が分離を始めたのだろう。
「・・・“姉さん”を返してもらうよ、“ジュノー”?」
暗黒面の人格は僕を睨み、罵倒する言葉を吐こうとする。
その言葉を口にする直前に、まるで憑きモノがおちたかのようにがらりとその表情が変わった。
「・・・あ・・・?」
僕を見上げるその人の目は、僕の知る“姉”のものだった。
今まで身体を支配していた闇の力を全て僕に吸い取られ、姉には相当のダメージが残っている。反対に、僕は自動治癒で“ジュノー”に削られた分も完全治癒されている。
脱力状態の姉の身体を支えるために、僕はその傍にかがむ。
「・・・私、カナンに随分迷惑かけちゃったのねぇ・・・悪かったわ」
ポツリと呟く姉の顔色はとても悪い。創製神の祝福がない姉では後少しでも力を失えば完全に消滅してしまいかねない。
「迷惑っていうレベルじゃなかったけどね・・・でも、姉さんが元に戻って良かった。母さんにも謝った方がイイよ?」
「・・・わかってるわよぅ・・・もう、すっかり立場が逆転してるじゃない・・・」
かったるそうに話すのは、通常状態の姉である証だ。・・・というか、昔の僕が美化していただけで、実際の姉はずぼらでめんどくさがりだ。“おねーちゃん大好き”な僕の目はかなり曇っていたらしい。
「姉さん、闇の力に負けちゃったのって・・・やっぱり、その容姿のせい?」
唐突な容姿の変更。創製神の思い通りになるこの世界では、たとえ創造主であっても掌の上で転がされる駒の1つであると実感させられた。
「まぁ、それはきっかけではあるけど・・・どっちかっていうとカナンへの嫉妬が原因ねぇ。お母様がカナンばかり可愛がるから・・・カナンは補佐なのに~って・・・まだ、創られたばかりだったカナンを特別注意して見るのは当たり前のことなのにねぇ?」
「・・・ああ、そこを闇の力に利用されちゃったわけだ」
「そういうことねぇ・・・あー・・・一生の不覚。ホント最悪だわぁ、私」
力を抜かれての脱力+反省モードで、ジュノーはパタリとその場に倒れた。
「辛い?」
「んー・・・いろいろ辛い~・・・アレスにも謝んなきゃねぇ・・・ゼノンとアリシアだっけ?他のカナンの子ども・・・あの子達にも謝んないとだし・・・もしかしなくても、回復したら謝罪行脚?」
「だねぇ」
僕が頷けば、姉はさらに脱力した。




