勝機
「ジュノー・・・同情はしないよ。闇の力に負けたのはお前の弱さが原因だ」
「安心したわ、カナンがおバカさんでなくて。同情するなんて言われたら吐き気をもようしていたところよ」
まずは軽口のたたき合い。お互いに隙を伺っている状態だ。
ジュノーは生まれた時から創製神候補としての教育を受けてきているから、戦闘面でも充分な経験と実績がある。
一方、僕は補佐としての教育しか受けてきていなかったから、ジュノーが封印されてから独学で学んだ。元が違うからかなり苦労したが、それを補うために母からの加護を得た。
つまり経験年数はともかくとして、お互いの力はほぼ互角。
実際は、ジュノーは闇の力に偏り、僕は光の力のみ。そのうえ今までのジュノーの攻撃でだいぶ弱っている。
「こう見えても創製神の補佐となるために生まれたからね。馬鹿じゃ務まらないだろう」
「そうねぇ・・・でも、アタシがお母様ごと“創製神クマリの世界”を壊すから、もう意味はないだろうけどね」
くすりと笑うジュノーは妙に色気があった。闇の力の一つ“魅力”の影響だろう。
「そうは、させない」
「そんなに弱っていて、何ができるというの?」
見下したジュノーの言葉に、それでも僕は心を乱すことはない。
「・・・まだお前はわかっていない。ここに来た時点で既に勝敗はついている」
そう。ジュノーが目覚めた瞬間から僕の力を削ったように、僕も相対した時の準備は怠らなかった。
「・・・どういう、意味?」
僕の言葉にジュノーが警戒レベルをあげる。
でも、遅い。僕の準備は既に整っている。『メーゾ』全体を使った術式であるソレは、彼女に気づかれることなく完成した。
「仕上げは、実際にこの“目”でお前の姿を視認すること」
僕は傷ついた“左目”を開いた。そこに眼球はない。創造主であっても実体を持つ以上傷痕は残る。
だが、精神体の部分は時間をかければ創製神の祝福により自動治癒で完全に癒される。僕は“左目”に闇の力が戻ってくることを避けるため、あの懐剣に呪いを施した。
精神体も癒されないようにする呪いがかかったあの懐剣で傷をつけた左目は予想通り自動治癒が発動しなかった。だが、その呪いを解いて、創製神の祝福による精神体の自動治癒が発動した時、失われた闇の力はどこからくるのか。
再会した時に確認したが『神界』にいるラームにあげた僕の闇の力は、ラームの身体に“馴染んで変質して”いた。つまり、ラームから闇の力が還ってくることはまずない。僕がこの時間軸よりも過去に赴いて闇の力を手放したのはそれが理由だ。
ならば闇の力は復活しないのかと思うかもしれないが、そうではない。自動治癒は“完全治癒”するために“代用できる力”を求める。普通ならばそれを補うのは自分を創った者、僕の場合は母・創製神クマリの力だ。
だが、目の前に“代用できる力”があればどうだろうか?
ジュノーと僕は創製神クマリの子どもであり、姉弟だ。どうあっても力の質は似てくる。そのうえ、その闇の力は僕が本来持つ力よりも上質で、強い。
結果として、自動治癒は“ソレ”を“糧”にする。
「・・・まさか、カナン・・・お前ッ!」
ジュノーもやっとそのからくりに気づいた。が、今更だ。僕は力ある言葉を発した。
「・・・“解呪”」
「っきゃあああぁぁぁあっ!!!!」
悲鳴をあげ、ジュノーが膝をついた。




