ジュノー降臨
「ぐっ・・・なんだ、これはッ!」
苦しそうにうめくオーガスに、光をまとったリィアは目を細めた。
「ここは、カナン様の治める地・・・カナン様の力の方が有利に働くのは当然のこと」
「これが・・・カナン様の力だというのか!」
混じりっ気のない純粋な光の力、これは創造主が持ち得ない力だ。
だが、僕はそのために闇の力を他の人間に託すことで可能にした。
「暗黒魔術師の最大の弱点、それが光。・・・ジュノー様の現在の力の質を考えれば、光の術で対抗しなければならないことはわかりきっていました。・・・カナン様はそのための準備を怠らなかった。それだけです」
リィアの言う通りだ。
僕はジュノーを止めるために様々な準備をしてきた。その時点では予測できない行動すらも念頭に入れて、何度もシミュレートしてきたのだ。
「・・・おのれ・・・おのれぇッ!!」
オーガスの身体がボロボロと崩れていく。純粋な光の力をその身に受けて浄化されているのだ。
その時だった。
「・・・ふぅん・・・あの子ったら、随分と無茶したようねぇ?」
空間が歪む音がして、光を放つリィアの前に降り立つ女。
「ジュノー様!!」
オーガスの歓喜の声をあげ、フィラルとリィアが目を瞠る。ジュノーの姿を見たのはこれが初めてだからだろう。
「オーガス、残念だわ・・・お前はとても良い駒だったのに」
その黄色の瞳を細めて呟く。
「じゅ、ジュノー様!お、お助け下さい!!このままでは・・・!」
「ん~とぉ・・・無理。今のアタシは闇の力の比重が大きいから」
闇の力で補強してやっても純粋な光の力には太刀打ちできない。ジュノーに笑顔でそう告げられて、オーガスは絶望した表情をうかべ―――完全に浄化された。
「・・・ご自分の眷族を・・・」
「眷族?違うわ・・・下僕よ」
フィラルの呟きに反応してジュノーはクスリと笑う。
完全に闇の力に呑まれ、暗黒面が前面に出てきてしまっている。もう、一刻の猶予もない。
仮にも元創製神候補として生れたジュノーを滅ぼすには大きな力が必要となる。だが、止めるだけなら今の弱った僕にでもできる。
そのための準備だ。
「・・・アリス、ゼノン・・・ここは任せたよ?」
「・・・わかったよ、父さん」
「お気をつけて」
2人に見送られて、僕はジュノーの元へと転移する。
「・・・風よ、彼の地へ我を運べ」
意識が遠のき足に土の感触が伝わるのと同時に、凄まじい闇の力が肌を刺激した。
「・・・久しぶりだ、ジュノー」
「そうねぇ・・・ふふっ、少しは男らしくなったじゃない。似合うわよ、その傷。・・・それがアタシを倒すために得た力の代償ってわけね?」
「まあね・・・」
そう答えて僕はフィラルとリィアに視線を向ける。
「フィラル、リィア・・・下がって」
「はい」
「わかりました」
緊張した面持ちで頷いて2人が下がるのを確認した僕は、改めてジュノーと向き合った。




