光の魔術師
あれから数日が経った。アリシアはショックから抜け出し、てきぱきと働いている。
動いていないと余計なことを考えてしまうとこぼしていたから、僕は何も言わないようにしていた。
「・・・父さん」
だるい身体を持て余してソファーに埋まっていた僕は、その声の聞こえた方へ視線を向けた。
「ゼノンか。・・・どうした?」
部屋の入り口にはムスッとした僕の息子、ゼノンが立っていた。
「どうして、俺はこの件に関わらせてもらえないんだ?」
「自分でも、わかってるんじゃないのか?」
溜息まじりにそう言って、僕はゼノンを見つめる。
どこからどう見ても思いつめているようにしか見えない。
その眉間にしわを寄せた表情を見れば“親”である僕でなくても、この件には関わらせたくないと思うだろう。
「でも、俺は・・・アレスのッ」
「敵討ちをしたいと思っているなら尚更ダメだ。私情で動く事はしないようにと告げてあるだろう?・・・僕達、創造主一族は責任ある立場なのだから」
「父さん!じゃあ、俺は・・・俺は黙って見ていろって言うのかよ!!姉さんはこの件に関わっているじゃないか!」
「アリシアはお前と違う。・・・ちゃんと、公私を分けて考えられる子だ」
「でもッ」
尚も食い下がろうとゼノンが口を開いた時、ドアをノックする音が聞こえる。
「・・・入れ」
僕が入室を許可すると、白髪緑眼、モノクルをかけた少年が入って来る。
「失礼致します。・・・よろしかったのですか?」
ちらり、とゼノンに視線を向ける彼に、僕は微笑む。
「・・・大丈夫だ。・・・ゼノン、紹介する。光の魔術師のフィラルだ」
「お初にお目にかかります、ゼノン様。・・・これより暗黒魔術師の担当となります、フィラルと申します」
フィラルは二コリと人懐こそうに笑い、ゼノンに最上の礼をした。
「・・・父さん、これは一体どういうことだよ!」
「ゼノン、2人きりではないのだから、私的な言葉遣いは慎みなさい」
「・・・申し訳ありません、カナン様」
言葉を荒げたゼノンをたしなめれば、渋々といった様子で謝る。
「フィラルは闇の術に耐性を持っている。ジュノーが使役している暗黒魔術師の術はほとんど効かないと言っていいだろう。つまり、アレスのようにはならないということだよ」
アレスが倒れた経緯を聞いていたゼノンはハッとしてフィラルへと視線を向けた。
「万が一のことが起こりましても、創造主一族の方々にご迷惑をかけることだけはありませんので」
「・・・ッ!」
淡い笑みをうかべる彼に、ゼノンは言葉を詰まらせる。
「フィラル、暗黒魔術師を倒せばジュノーが出てくる。そうなればお前では相手にはならないはずだ。彼女はまがりなりにも元創製神の次代だった人だからな」
「はい。・・・ジュノー様のお姿を確認しましたら、すぐにご連絡いたします」
「任せた」
「は!」
うやうやしく頭を垂れたフィラルは身を翻して退室する。
「父さん・・・」
「いくら再生できるといっても、子に先に死なれる親の身にもなってくれ」
思わず弱音がもれる。再生されるアレスは“元の記憶”を持っているが“器”は全くの別物。真の意味では別人だ。これでゼノンまで暴走して死なれたら・・・そう考えたらやるせない。
だからといって部下なら死んでもいいというわけではない。ここは適材適所というやつだ。暗黒期を持つ創製神・創造主一族は、暗黒魔術に対する耐性が総じて低いから適材とは言い難いのだ。
「・・・ごめん、父さん。ワガママ言って・・・」
シュンとしてしまったゼノンに苦笑し、その頭を撫でようと腕を伸ばした時だった。
ぐらりと目の前が揺れる。眩暈だと理解したと同時に僕はソファーに横倒れになった。
「・・・父さん!!?」
ゼノンが仰天して叫ぶ。顔が真っ青だ。ああ、逆に心配をかけてしまった、と僕は猛省した。




