閃光の鉄槌
「退け、アリス!」
アリシアの愛称を呼ぶアレス。一瞬、アリシアの表情が曇った。アレスが正気に戻ったように、錯覚したのだろう。
「覚悟をしてね、アレス。・・・私は、カナン様をお守りすることが第一なのです」
許しを請い、アリシアは呪を口にする。
「・・・光よ集え・・・闇に魅入られし哀れなる魂に、閃光の鉄槌を!」
アリシアだけに許された光の精霊を使役した術“閃光の鉄槌”その威力は、ベストコンディションの時の僕でさえ、防ぎきれるかどうかといったところだ。
母がそんな能力をアリシアに授けたと知った時は愕然としたものだ。
「・・・!?」
アレスは虚ろな目を見開いて驚く。
まさか、アリシアが創造主一族ですら滅ぼしてしまうような術を放ってくるとは思いもしなかったのだろう。
どこかでこの様子を窺っているジュノーも驚いているはずだ。
光がアレスを包む。逃げられはしない。
「!!!!!」
アレスは声にならない悲鳴をあげ、がくりとその場にひざをつき倒れ伏した。
「・・・アレ、ス。・・・ごめ、なさい・・・」
アリシアが声をつまらせ、その様子から視線を逸らす。
「・・・父上・・・アリス」
「「!!」」
アレスから発せられた声に、僕とアリシアはバッとアレスに顔を向けた。
「・・・申し訳ございません・・・父上」
「アレス・・・正気に、もどったのか・・・」
グッと込み上げる思いを飲み込み、僕はアレスの傍に寄る。
「・・・暗黒、魔術師、オーガスという者に・・・目を見られた瞬間、このような・・・」
「・・・暗黒魔術師?・・・ジュノーの手の者か?」
コクリ、と頷くアレスの手を握る。
「意識が、遠のいて・・・気がついた時には・・・あなたを・・・申し訳・・・」
「謝らなくていい・・・」
ゆるゆると、アレスの手がアリシアに伸ばされる。
「・・・このようなこと、君にさせて・・・アリス・・・すまない・・・」
「いいえ、アレス。・・・私は姉としてするべきことをしたまでよ」
アリシアは愛しむように、アレスの頬を撫ぜる。
「父上・・・暗黒魔術師は光を嫌います。・・・ヤツは、人の、心の闇につけいるのです」
最後の力を振り絞り、敵の情報を僕達に伝えようとするアレス。身も心もボロボロの筈なのに。
「アレス・・・」
「・・・もっと・・・父上のお役に、たちたかった」
ぱたり。
アレスの腕から力が抜ける。うっすらと開いていた瞼も閉じられる。
「・・・っ、アレス!アレス!!」
ガクガクとアリシアがアレスの体を揺らす。だが、全身から力が抜けている為に、くたりとするだけ。
「・・・いや・・・いやぁあああっ!」
アリシアの口から、悲鳴がほとばしる。
「アリシア!」
「お父様!いやっ!・・・アレスを、私っ、アレスを!!」
「・・・大丈夫。創製神がちゃんと再生してくれる。・・・だから、今は・・・安心してお休み」
ショックの為に混乱して僕にしがみつき、悲鳴のような声をあげるアリシアの額に掌をあてる。
ゆっくりとアリシアの体から力が抜けていく。
「・・・おとう・・・さま」
かくん、とアリシアの体から力が抜ける。その体を支えながら、僕はグッと手を握り締めた。
自身の掌に爪が食い込んで、血が流れ落ちる。
「・・・許さないぞ・・・ジュノー・・・」
怒りで震える声で、呟いた。




