異変
帰ってきた途端、禍々しい空気が僕を包み込んだ。
「・・・これは、一体・・・」
僕は口元を押さえ、眉を寄せた。
「・・・カナン様、・・・お帰りなさいませ」
出迎えてくれたアリシアを見て、僕は絶句する。
「・・・申し訳、ございません。私がおりましたのに・・・」
「・・・その怪我は?」
弱々しく微笑むアリシアを見て、僕は訊ねる。
「・・・アレスが・・・ッ、カナン様!危ない!!」
説明をしようとしたアリシアが血相を変えて僕の腕を引っ張り、結界を張る。
その瞬間、僕のいた場所は紅蓮の炎に焼かれていた。
「・・・ア、レス、お前・・・」
目の前にいるのは次男のアレス。その目は虚ろで、どう見ても正気ではなかった。
「・・・大いなる、力。・・・あのお方のために」
ぼそぼそと呟くアレスを見て、僕は状況を悟る。
「・・・ジュノーか。すでに封印を解いて動き出していたなんて」
「カナン様が、この時間軸を留守にする時を狙っていたようです」
こんな状況でも冷静なアリシアに感心しながら、僕はこの場にいないもう1人の息子の存在を思い出す。
「・・・ゼノンは?」
「・・・おねんねですわ。ひどく混乱しておりましたので、安全な場所に移動させて眠らせました」
「なるほど」
納得する。あの直情型の息子がこの状況で冷静でいられるわけがない。
「・・・アリシア、そこを、退け」
僕をかばって結界を張るアリシアに、アレスはイライラと言葉をぶつける。
「アレス・・・」
悲しそうにその名を呟き、アリシアはすっと指をアレスに向けた。
僕はその仕草にハッとする。
「アリシア・・・まさか・・・」
「・・・そのまさかですわ、カナン様。・・・創造主に対する反逆は許しがたい罪です。仮令それが、操られた結果だとしても」
決然として言ったアリシアの瞳は冷たい光を宿す。
「しかし・・・」
「弟の不始末は、姉の私が」
アリシアの決意は変わらない。
僕にはそれが良くわかった。なぜなら、アリシアの決意は僕のそれに他ならなかったから。
「・・・任す。失敗は許さない」
「・・・御意に」
僕も覚悟を決めてアリシアに許しを、いや、命令を下した。




