創造主の力
僕とラームが初めて出会った場所。里の入り口にごく近い森の中に僕達はいた。
「ここなら、誰にも迷惑はかからないだろうからね」
「うん!・・・で、どんなのを教えてくれるの?」
ラームが目を輝かせながら問う。
「そうだね。・・・もしものときに使える魔術を教えておこうかな?」
教えるべき魔術は決まっている。闇の力は使いようによっては、破壊のみを招く危険な力だからだ。
「もしものとき?」
「・・・そう。命に危険が及ぶとき。・・・いいかい、これは本当にもしものときに使うんだよ?」
僕が言うと、ラームは真剣な表情で頷く。
「今から教える術は、呪術と法術には無い効力を持つものだ。だからこそ、使うときには気をつけて」
「うん。わかった」
僕は理論ではなく、見て覚えさせることにした。それが、本来の術の継承の仕方だからだ。
「・・・水よ来たれ厚き壁となり我を加護せよ!」
どこからともなく溢れ出てきた水が僕の周りを囲む。
「わ~・・・すっごぉい・・・」
「ラームもやってごらん?」
「うん!・・・水よ来たれ厚き壁となり我を加護せよ!」
水の精霊達が戸惑っているのだとわかる。僕の闇の力で呼びかけられているのに、僕の気配ではないから。
しかし、力には抗いがたいらしく、水がゴポリと湧き、ラームの周りに結界を作る。
「・・・今はまだ、ラームの気配と僕の闇の力が交じり合っていないから、精霊達が迷うんだよ。でも、いずれ闇の力は君に馴染む。・・・ラーム、この力で君は何をする?」
「お母さんを。・・・里の皆を守る」
「・・・うん・・・良い答えだ」
僕はラームの答えに満足する。そして、ラームに色々と魔術を教え込んだ。
そして日が傾きかけた頃、僕はパン、と手を叩いた。
「・・・さて。これだけ覚えれば、いざという時に充分皆を守れるだろう」
「うん!」
にっこりと笑うラームの頬は興奮のために紅潮している。これだけの短時間で、力を自分のモノにし始めてきた。なかなかに筋が良い。さすがはあのレイヤの子だとしか言い様がない。
「ラーム。自分の信じた道を行くんだよ?」
「・・・うん」
ポフ、とラームの頭に手を載せ、そのままワシャワシャとかき回すように撫ぜる。
「わっ・・・」
「・・・さよならだ、ラーム」
そう言って、僕は微笑む。
悲しそうな顔をして僕を見るラームに、僕はチクリと胸が痛むのを感じた。
―――ダメだ、情を移してはいけない。
「・・・せっかく、仲良くなれたのに」
「ごめん。僕は、早く帰らなければいけないんだ」
僕は自分に言い聞かせるように告げて、ラームに背を向ける。
「・・・カナン、僕達、また会える?」
「・・・会いに行くよ。10年後の君にね」
「・・・うん!待ってる。・・・待ってるから!」
叫ぶラームに、僕は背を向けたまま、頷く。
「・・・ハギアやレイヤによろしくね?・・・ピクル、ラームを頼んだよ?」
「ハイ、カナン様」
ピクルからしっかりとした返答があって、僕は知らずのうちに安堵の溜息をつく。
「じゃあ、またね。・・・・・・風よ我を元の場所へと運べ!」
風が渦を巻くように僕の周りを囲む。僕は我慢しきれずにラームを振り返る。
「カナン・・・ッ」
ラームは泣いていた。静かに頬を濡らし、僕を懸命に見つめて・・・。




