先見の力
手をつないだまま里の外周の道をたどり、僕達はラームの家の前まで来ていた
「ふー。誰にも見つからずに来れたね!」
にっこりと笑うラームに頷く。
「うん。・・・これから、レイヤに見られるけどね」
「お母さんは騒いだりしないから大丈夫だよ!だって、もうわかってると思うもん。お母さんは未来が見えるんだ」
「そうだね・・・レイヤには先見の力が具わっている。だから、きっと救急箱でも持って待ってるよ」
僕は扉を叩く。すると、すぐにレイヤが扉を開けてくれる。
「お疲れ様でした、カナン様。・・・こちらにいらして下さい。血は止まっていても開いたままですから、傷を消毒しなければ」
僕の手をむんずと掴み、レイヤは奥の部屋へと連れて行く。
「・・・ほら、ね?」
引きずられるような形で連れて行かれる僕に、ラームはピクルと顔を見合わせ、クスッと笑った。
「ホントだ」
「さすが、“先見の魔女”と呼ばれたレイヤだよね」
「“先見の魔女”?」
「・・・創造主様の主従の誓いの印を頂けて良かったわね、ピクル。でもおしゃべりが過ぎるのはダメよ?」
ピクルが口にした二つ名にラームはキョトンとし、当人であるレイヤは優しげな表情は崩さず、しかしやんわりとたしなめた。
「そうだぞ、ピクル。これからは“はぐれ”じゃないんだから、情報の扱いはもっと丁寧にね?」
僕にまでそう言われてピクルはしょんぼりとその長い耳を垂れ下げた。
「はぁい・・・ごめんなさい、カナン様」
その後しっかりとレイヤに消毒をしてもらい、包帯まで巻いてもらうと、まるで重傷を負ったような気分になる。
「うわー・・・余計、痛々しくない?」
姿見で自分の姿を確認した後、レイヤを振り返る。
「ソレぐらいで丁度良いのではありませんか?・・・このまま、元いた時代にお戻りになるのでしょう?」
さすがはレイヤだと感心する。僕の行動まで見られるとは思わなかった。
創造主の先まで見てしまうとは、全盛期はかなりの力を持っていたのだろう。それこそ、創造主の子ども達に匹敵するほどの。
「・・・まあ、その前に、ラームに力の使い方を少しだけ教えていくつもりだけどね」
くつくつと笑い、僕はラームの手を取る。
「夕方までこのままラームを借りていくよ」
「・・・はい。お気をつけて」
彼女はどこまで見えているのだろう?
語ることは無いだろうが、己が死んだ後のことさえも全て見通しているのかもしれない。
「―――実に惜しい」
「ん?何か言った?カナン」
「いいや。なんでもないよ、ラーム」
僕は思わず声に出してしまった思いを断ち切るように首を振り、ラームに笑いかけた。




