創造主の気まぐれ
「か・・・カナンが、創造主様・・・」
呆然と呟くラームに、僕は微笑みかける。
「あんまり畏まらないでほしいな。その為に、黙っていたんだし・・・今まで通りで良い」
「・・・あ・・・うん」
理解の早いラームは、すぐに頷く。
「申し訳ありません。カナン様。・・・騒ぎ立ててしまって」
申し訳なさそうに言うのはピクル。
「いいよ。・・・里のど真ん中でやられてたら、さすがに困ったけれど」
僕はそう言って、左目を押さえたハンカチを取る。
「血は止まったみたいだな。・・・でも、このまま里の中を歩いたら、さすがに目立つかな?」
「裏道から行こう。僕の家まで行けば、大丈夫でしょう?」
ラームはそう言って、僕の手を引く。
案内されたのは里の外を囲むあぜ道だった。
「里の外周にこんな道があったなんて・・・」
「ずっと前に、ピクルと遊んでて見つけたんだ」
にこにこと話す様子を見れば、闇の力を受け入れた影響がまったく無いということがわかる。
「そうか・・・ねえ、ラーム」
「ん?なぁに?」
「・・・力の使い方を教えてあげようか」
それは、闇の力をただ魔力に還元してしまうのはもったいないと思ってしまった、僕の気まぐれ。
風の民の血をひくこの子が、闇の力の“正式な方法で”使いこなせるのか、興味が湧いたのだ。
きっと、元いた時代に戻ればこの子の未来の姿を見ることになるだろう。その為にも・・・今、教えておくのも悪くない。
「い、いいの?」
「もちろん。・・・君が立派な呪術師になれるように、ほんの少しだけど皆が知らない使い方を教えてあげる」
「すごいや!!創造主様の力の使い方って、呪術師とはぜんっぜん違うんでしょ!?」
「そうだね、理がまったく違うからね。・・・ただ、ラームは風の民の血を引いているとはいえ人の身だ。オリジナルに近い力を使えるわけではないよ?」
「うん!それでもいい。・・・僕は、強くなりたいんだ・・・」
見通していたわけではない。ただ、魔力の無い子がこの里で育てば、劣等感を抱くのは当然といえた。しかもこの容姿だ。金髪に紅の瞳を持つ風の民の中では黒髪に茶の瞳はひどく浮いてしまっていただろう。
そして、ラームは聡い。里の者達がどれだけ隠そうとも、いずれ真実を知るだろう。その時のために、力の使い方を教えておく。
呪術大国ナルーン王国の王子にして、創造主の眷族である風の民の子。僕の興味を引いた幼い子。
これは気まぐれだ。創造主がたった1人に入れ込むなんてありえない。僕は自分に言い聞かせる。
ほんの少し使い方を教えるだけ。その力をどう使うかはあの子次第だ。




