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昔語り


パタパタと走る音が近づいてくる。僕は振り返りその姿を目にして微笑んだ。


「カナンッ・・・遅くなって、ごめんね!」


にこりと笑うその顔は上気し、肩で息をしているところを見ると相当急いできたことはわかる。


「大丈夫だよ。・・・こちらこそすまない。いきなりだったからね」


「んーん。そんなことは良いんだ。・・・ピクルも一緒なんだけど・・・良いかな?」


ピクルというのはどうやら腕に抱いている神獣・麗鬼のことのようだ。ラームを心配して離れたがらなかったらしい。


神獣は感応力に優れているから、僕の力を感じ取ってしまったのだろう。


「・・・構わないよ。さあ、入ろうか」


僕がラームの手を引いて神殿の中に入ろうとすると、ラームはぎょっとした様子で二の足を踏む。


「ちょ、ちょっと待って、神殿の中に入って良いの?」


「良いんだよ・・・ねえ、ラーム。少し昔話を聞いてくれないか?」


僕は歩を進めながら、声のトーンを落とす。


「・・・う、うん」


ラームは大人しく僕に従い、風の神殿の中へと入った。


神殿内はしーんとしている。祭りや年に一度の成人の者を祝う儀式にしか使わないために、風の民にとって、この神殿は特別なものだ。


始めて入ったらしいラームは、物珍しそうにキョロキョロと神殿内を見ている。


「ラーム、こっちに来て座って」


僕はそんなラームの手を引き、神殿の控えの間に入る。


「それで・・・昔話って?」


ことりと首を傾げるラームに、僕は向かい合って座りながら話し出した。


「昔、とても仲の良い姉弟がいたんだ。・・・まあ、弟の方がとても姉に懐いていたんだけれどね。・・・でもある日、その関係が崩れた。姉が闇の力に負けてしまったんだ。全てを憎み、破壊衝動を抑えきれなくなってしまった。姉を弟はなんとか止めたかった。・・・けれど、その為には力が必要だったから、その弟も闇の力に身を任せた・・・」


「・・・それで・・・どうなっちゃったの?」


「・・・うん。とりあえず弟は、姉をとある場所に封じることに成功した。・・・けれど、弟自身も闇の力を抑えるのに精一杯で、その封印は完璧ではなかった。・・・いつ解かれてしまうともしれない封印をそのままにしておくことも出来ず、弟は考えたんだ。・・・どうすることが一番良いのか。それは・・・」


僕はラームと視線を合わせたまま続ける。


「自分の闇の力を完全に切り離し、姉の闇の力を吸収すること。そうすれば、姉の中には光の力のみが残り、消滅させることなく元に戻すことができる」


「それって・・・カナンとそのお姉さんの話、なの?」


ラームは本当に聡い。僕の言いたいことが理解できたのだろう。


「そうだよ。そこまでわかったなら、僕の言いたいことはわかるよね?」


僕の確認に、ラームはこくりと頷く。


「ラーム・・・僕の闇の力を受け取って欲しい」


 僕はそう言って、じっとラームの答えを待った。



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