レイヤ
翌日の早朝、僕はラームの家の前まで来ていた。
まだ、ラームは夢の中だろう。でも、それで良い。ラームには聞かれたくない話をするのだから。
控えめに扉を叩く。すると、まるで来訪者が来ることがわかっていたかのように、扉がすぐに開く。
「・・・お待ちしておりました」
出てきたのは、ラームの母親、レイヤだった。
「なるほど・・・素晴らしい魔力だ」
僕は微笑む。
これだけの逸材をこの里の中で朽ちていかせるのは惜しい。そう思えるほど、レイヤは強い魔力の持ち主だった。
僕を家にあげ、レイヤは風の民が好んで飲む、アルラーメという飲み物を出してくれる。
「・・・貴方様のお好きなものなのでしょう?・・・私たちをそのようにお創りになったと、そう、聞いたことがあります」
「・・・そうだね。風の民は・・・僕自身のコピーのようなものだ。・・・他の部下や創造物とは違う」
どうやら、レイヤはすべてに気づいているのだろうと判断する。そうでなければ、“待っていた”という言葉は出てこない。
「・・・ラームを貸してもらいたい」
「我が子が貴方の力の器になる運命だということは、あの子が生まれた時から存じておりました。・・・私には、少しだけ先を見る力が備わっております。・・・ですから、貴方の力の器になることであの子が救われることも知っています。・・・魔力がなければこの地で生きていくのは難しい・・・」
真っ直ぐに僕を見つめるレイヤに、微笑みかける。
「・・・城にいれば・・・ラームは王太子として暮らしていただろう。・・・あの子は、その運命も持っていたはずだよ」
「・・・ええ。それも、知っています。・・・ですが、私は・・・」
言い淀むレイヤに頷いて見せ、僕はちらりとラームのいるだろう方を向いた。
「・・・ラームは優しく賢い。きっと、良い王になったろう。・・・でも、それと同時に辛い思いもしただろうね。優しさだけでは、国は治められない。・・・あの子の性質はそういう性質だ」
「はい・・・」
さすが母親だ。ラームの性質は良く知っているらしい。僕はレイヤに再度目的を告げる。
「ラームを貸してもらいたい・・・僕の闇の力の器として」
「・・・喜んで」
静かに微笑みレイヤは頷いた。それしか道がないことを知っているからだ。
「ついでに・・・僕がいなくなってから、真実を伝える役割を担ってもらいたい」
「・・・仰せの通りに・・・創造主様」
レイヤはそう言って、その場に膝をついた。




