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わたしは小さく深呼吸して、
「えっと。わたし、あなたの事あまり知らないし・・・好きかどうかも分からないから・・・」
おずおず、思っていることを言葉にしてみる。
「そうだよね。ぼくだって、君を知らないことの方が多いんだし」
彼はつけ加えて、
「でも、ぼくは君がいいと思ったんだ。目立たない感じだけど、ぼくには目立ってた。つい目がいって…だから、いつも見てた」
思わず照れてしまうセリフ、だけど嬉しいかも。ドキドキがさらに増している。
「あ、でも、学校じゃぼくも目立たない感じだったし、気づかなかっただろうけどね」
と、彼が苦笑する。
ずっと、わたしを見ていた。
そんなこと、ぜんぜん気が付かなかった。
彼は、わたしから目を逸らさずに穏やかに見ている。
澪や、ちせや、れなが自分のことを話していたときのあのまなざしに、なんか似てる。
こんな顔してたんだね・・・
よく見ると、まつげ長いんだな。
こんなにちゃんと男子の顔を見たことなかったかも。
「あの・・・友達からでもいい、かな? あなたの事、ちゃんと知ってから答えを出したい。」
わたしも彼から目をそらさずに言う。
自分にも言い聞かせるように。
「わかった。もっとぼくを知ってほしいし、ぼくも君を知りたい。だから、ちゃんと答えが出るまで待ってるよ」
と言い終わると彼は携帯を取り出した。
「連絡先、交換しても…いいかな?」
わたしは、こくりと頷く。
携帯のアドレス帳に、初めて男子の名前が登録された。
それから彼は、
「ありがとう、じゃ、そろそろ行くね」
と言って笑顔で帰ろうとする。
さっき、三人と別れたときと同じように・・・
わたしはベンチに座ったまま。
その後ろ姿をずっと目が追う。
だんだん、小さくなる彼の姿……
ねえ、振り返って・・・
心のなかでそう思ってる自分がいた。
れなも、ちせも、澪もちゃんと手を振ってくれた。だから、あなたも・・・
超能力があるなら通じてっ。
って、そんなことないかと諦めながら、
あなたの姿が消えかけたとき・・・
「また今度な!」
彼の声が響いた。
小さすぎてこっちを向いてるのか顔はわからないけど、その声はわたしにちゃんと届いた。
え、ほんとに超能力者!?
わたしの心があなたに届いたの??
さっき二人でいたときより、心臓がバクバクしてきた。
これが人を好きになるって感覚?
みんなこんな気持ちを抱きながら、あんないろんなことを話してくれたの?
三人はみんな、笑顔で話してくれた。
好きなひとの気持ちを考えて、一喜一憂してたんだから、きっとつらいことも、苦しいことも多かったはず。
それなのに、ああやって笑顔で話してくれた。
わたしも、あんな風に笑顔でみんなに話したりすることができるのかな?
お惚気でもなく、自慢でもない・・・
みんなが暖かく感じるような恋バナを。
『恋愛って人それぞれなんだね』
『これが正しいって決めるのは自分自身』
また、あのときの言葉がこだました。
わたしにも、わたしの恋愛があってもいいんだよね?
心がそわそわしてきた。
この先どう進むのか、わたしにも分からない。
でも、不安は不思議となかった。
これから、ちゃんと見つめていきたい。
周りのこと、わたし自身のこと。
そして、彼のことも……
携帯を開いてさっき、登録した彼のアドレスを見つめた。
こんなとき、なんてメールしたらいいんだろう?
いや、彼からメールがあるまで待ってるべきなのかな?
あー、ぜんぜんわかってないや、わたし。
でもね……
そんなこと考えるだけで、これから先が少し楽しみに思えた。
わたしの中で、何か動き始めたんだ。
わたしの心がどこかに進もうとしている。
居場所を見つけようとしている。
澪の彼氏じゃないけど、わたしも
長い眠りから覚めれるかもしれない。
ありがとうね。
澪、ちせ、れな。
そして……
わたしを見つけてくれた、あなた。




