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今日はいよいよ卒業式か。
懐かしい風景、懐かしい街をゆっくりと見ながら歩いていく。
もうこれで見納めなんだ。
高校の正門に着いた。
制服姿の学生に混じって、スーツや着物を着た保護者たち、校庭は人であふれていた。
人混みをかき分けて前を進む。
と、そこにぽっかりひとの輪ができていた。
誰か立っている。
こちらを向く。
りょうさんだった。
「りょうさん!」
わたしは小走りに近づいていく。
近づくにつれて、りょうさんの手元に何か見えた。
あれは…
車椅子?
わたしはあわてて覗きこんだ。
そこには眠ったままの、しょうさんがいた。
「こいつ運ぶのなかなか大変だったわ〜」
お兄さんが笑いながら言う。
「でも、きっとみおちゃんの卒業する姿を見たいだろうって思ってさ。寝たままだけど、きっと心には伝わってるはず、だよね?
みおちゃんなら、きっとわかるよね?」
わたしは頷いた。
そして膝を曲げて、寝ているあなたの顔を見た。
外の光のなかで、はじめて見たしょうさんの顔。
色白の顔に光が射し込み、キラキラとまぶしかった。目尻が垂れ、薄めの口元が緩んでいる。
穏やかな寝顔。
きっと夢のなかで、一緒にわたしの卒業を祝ってくれてるんだね。
涙が出そうだったけど、ぐっと耐えた。
卒業式は今からなんだ。
わたしは二人に見送られて、会場に向かっていく。
そのとき…
(澪ちゃん)
たしかに聞こえた。
あのころ何度も電話で聞いた優しく暖かい声。
わたしは振り返った。
そこに見えたんだ。
車椅子から降りて、ちゃんと立って…
わたしに笑顔で手を振っているあなたの姿が。
誕生日のときに指切りしたあの約束を覚えててくれたんだね。
いま、ふたりは同じキャンパスに立ってるんだね。
わたしが3年間、学んだこのキャンパスに・・・
笙さん…
夢は、叶うんだよね。
大学でもまた、一緒に並んで歩けるよね。
(またきっと会えるよ)
わたしは、小さく頷いて会場に歩きだした。




