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しょうが眠る家におれたちは着いた。
玄関を開けたとき…
父親が慌てて出てきて、
「しょう、さっき起きたんだぞ!」
普段、冷静な父親が大声で言った。
「お腹がすいてたみたいで、ご飯たくさん食べてたよ。その後でいきなり紙とペンを貸してくれって言って。で、書いてる途中にまた眠ってしまった…これをお前にだって」
おれは手紙を渡された。
力ない文字でうっすらと書かれてある。
りょう兄ちゃんへ
ごめんなさい。
ぼくは嘘をついてしまいました。大切なひとの人生を狂わせてしまいました。
しかも、お兄ちゃんにも迷惑かけてしまった。
きっと、彼女お兄ちゃんが好きなんだよ。
おれを見たらがっかりだよね。
そんなことわかってたんだけど言えなかった。
情けない弟だよ。
お願いだから、彼女を一人にしないであげてください。
お兄ちゃん、おれの代わりに会って………
そこでまた眠気が来たのだろう。文章は途中で終わっていた。
なんてバカなやつ。
優しすぎなんだよ。
おれの写真でなく自分の写真をなんで見せなかった。
お前の優しさはちゃんと伝わってたのに。
寝ている弟の前に彼女を連れてきた。
「おれでなくこいつが、弟のしょうだよ。幸せそうな寝顔だよね。きっとみおちゃんの夢を見てるんだな。一回、寝てしまったら何日も起きない病気なんだってさ」
せっかく、みおちゃんが来てくれたのに…
何もせず寝るだけのこいつ、辛いだろうな。
彼女は無言のまま、弟の寝顔を見ている。
おれは彼女に言った。
「嘘はたしかにいけない。でもこいつのメールはぜんぶ本心、そんなやつだったんだ。
だから、こいつのためにももう一度、大学ちゃんと考えてあげて欲しいんだ。もちろん、みおちゃん自身のためにも」
それから、彼女に向かって土下座をした。
「弟もそれを願ってるはず。お願いしますっ」
彼女はそれには答えず、しょうの頭に手を伸ばして髪をそっと撫でる。
「やっとあなたに出会えたんだね」
ひとり言のようにつぶやいた後、おれに頭を下げて家を出ていった。
それ以来、彼女からの連絡は一切なくなった。
数日後、弟はまた目を覚ました。
「ぼく、今度はどれくらい寝てた? 今日って何日かな?」
彼女のことが気になったんだろう。
おれは弟にあったことをすべて話した。
さっきまで不安そうだった弟の顔が少しだけ微笑んだように見えた。
「そうなんだ…」
と言ったあと、
「さっきまで今まで頭にあったことの、夢と現実とがうまくわからなかったんだ。みんな長い夢の出来事みたいな錯覚をしてたけど…彼女との時間はちゃんと現実だったんだね」
それから、独り言のように自分につぶやいていた。
なら、よかったんだよ。
これでよかったんだ。
ぜんぶすっきりしたんだから。
そして、おれの顔を見て、
「彼女の人生をまた戻してくれて、お兄ちゃんありがとうね。ぼく、安心したよ」
そう言い残して弟はまた眠りについた。
弟は笑っているように見えた。
だけど、その目からはうっすら涙が光っていた。




