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おれは翌日も弟の携帯を手にしていた。

ここには弟の思い出が詰まっている。

一番幸せだった時間が…


彼女からのメールを読むごとに、二人の気持ちが痛く伝わる。


外見で判断して、弟は遊ばれてるだけ、利用されてるだけかと思っていた。だけど、文章から伝わる気持ち。彼女も本気だった。


弟も苦しかっただろう、あんなにかわいい相手だから。


いつも彼女を想って心配してただろう。でも、会って自分を見せるのも不安だったはず。


だから、進路はちゃんと考えるように言ったんだろうな。


できたらずっと会わないで、心の支えのままでいたいと。


だけど、同じくらい今の彼女も苦しんでいる。


返事して


お願い


一言でいい


何かあった?


好きなひとできた?


それでもいい


わたしを好きでなくてもいいから


つながっていたいの


短いメールばかり。

余計に想いが伝わる。



次から次に彼女の叫びが送られてくる。


着信も…いつ寝てるのか、わからないくらい朝も昼も夜中も絶えずある。


今日でもう三日目。


おれは胸を締め付けられる思いがした。


おれは決断した。


このままにしていては、2人とも心が死んでしまう。


弟の心はまだ生きてる。

おれが2人を繋げてあげるしかない。

たとえその先に悲しみが待っていようと…


彼女ならもしかしたら救えるかもしれない。いや、救えるなら彼女しかいないんだ。


事実を知るのはつらいにちがいない。


だが今の苦しみもきっと同じくらい悲しく、辛いもの。


事実を知らせよう。


携帯が鳴った。


画面には、綾瀬澪、と出ている。

おれは受話ボタンを押した。


「もしもし?」


携帯に出たが声がしない。

すすり泣く声が遠くする。

もう一度、言う。


「もしもし…みおちゃんだよね?」


彼女が涙声で、

うん、とささやく。


これから、なんて説明するべきか。

そう考えていたとき…


「しょうさん…元気だったんだね。

よかった。ほんとに、よかった」


しょう?


彼女は弟と勘違いしてる。

たしかに声は似ているが、きっと今の彼女の精神状態では区別つかないんだ。


今の彼女は普通の状態ではない。

今は言えない、と思ったおれは、

このときだけ弟になりきった。


「心配かけてごめんね。大学、受かったんだね。おめでとう!」


だが彼女から答えはない。


「どうしたの?」


「わ、わたし捨てられたと思ってた。いつも困らせてわがままばかり言って…」


「そんなことないよ。みおちゃんを捨てたら二人は半分になるんだし」


メールの内容を思い出して慰める。いまは彼女を落ち着かせるのが大事だ。


「携帯が壊れててさ、修理に時間かかって心配させたね、ごめん」


また彼女は少し黙る。


「…そんな嘘くらいわかるんだから」


おれは弟みたいに賢くないかっ。やってしまった、ばれてるじゃないか。


「でも、そんなこといい。何があったかなんて関係ないし、言わなくていい。いま、話せてるんだから……二人はまだつながったままなんだよね?」


それは間違いないこと。

眠ってる弟の夢には彼女でいっぱいなはず。


「そんなこと当たり前だよ」


「なら、よかった」



おれは彼女に訊いた。


「もう試験も終わったんなら学校行かなくていいんだよね?」


「うん、受験も全部終わったよ。親に言われて仕方なく受けた地元の大学も受かってた」


「みおちゃん、すごいね!」


そして、覚悟を決めた。


「突然だけど…明日こっちに会いにこれないかな?」


彼女の声色が変わる。


「ほんと! ほんとに会えるの。うん、会いたい」


「遠くて大変だと思うけど、早く会って話したいんだ」


「そんなこと全然ないよ。今すぐにでも会いに行きたいくらいだもん!」


おれは待ち合わせ場所を知らせて、携帯を切った。


彼女の嬉しそうな最後の声が頭に響く。


だけど…


会ってすべてを話そう。

いつまでも隠すことはできない。

そう決心した。



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