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それは突然だった。
実家から連絡があってすぐに帰ってこいと。
おれはバイト先の店長に謝って、実家に戻った。
ただいまっ
声をかけるが返事がない。
居間に両親が並んで座っている。
「バイト中にいきなり、どうしたん?」
両親は答えない。
うつむいたまま。
理由はすぐにわかった。
両親の目の前にある布団。そこに寝てる姿。
弟だ。
声がでない。
おれは両親の隣に座る。
眠ってるようにしか見えない。
小さく言う。
「…どうして」
両親は無言のまま。
信じられなかった。
「…どうして死んだの!」
父親が小さく首をふる。
「いや、死んではない。ただ起きないんだよ。何をしても目覚めない」
そんなバカなことが…
弟の身体を揺するが、反応はない。
無駄だよ、父親が言う。
「ずっと寝たままで、2日めにさすがにおかしいと思って医師にみてもらったんだ。
体にはまったく異常はないらしい」
おれには、意味がわからなかった。
父親はまだ、話を続ける。
「医師は最後に付け加えて、もしかしたらクラインレビン症候群かもしれない、そう話した。治す方法は?と聞いたが、首を振っただけだったよ」
「なに、そのなんとか症候群って?」
「睡眠障害のひとつみたいで、寝てしまったらいつ起きるかわからない病気、原因もわからないらしい」
医師は、何らかの悩みやストレスがあったのかもと言っていたが、いまは本人にしかわからないこと…
母親が優しくささやく。
「何かあって現実から今は逃避したいだけ、楽しい夢の中にいたいのよ。でも、死んでないんだから。起きるのをみんなで待っててあげましょう。冬眠してると思って」
おれは二人をその場において、二階に上がりパソコンを開いた。
検索するとさっき聞いた病名が見つかった。
たしかに海外では10日間寝続けて起きたこともあったらしい。別名眠り姫病。
原因はわからず、またふたたび眠ることもある、と。
なんで弟が…
おれはその夜、両親が寝たあとこっそりと弟の隣に座った。
弟に目をやる。
弟はパジャマのまま。
布団から出てる弟の手。
見ると携帯電話が握られていた。
暗闇の中、携帯が寂しく光り続けている。
おれと違い内気な性格だった。
何を言われても断れない優しすぎる性格だった。
もしや…
いじめが原因?
おれは弟の手からゆっくり携帯を離し、それを開いた。
携帯には未開封のメールと無数の着信履歴が入っていた。
登録名は、綾瀬澪。
受信したメールはその名前でいっぱい。他にはない。
同じくらいの数の送信履歴があった。
毎日、やり取りしてたのだろう。
おれは最後に弟が読んだと思われるメールを開いてみた。
やったよ、同じ大学に合格できたんだよ!
もうすぐ会えるんだね!
そう書かれていた。




