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母親は冷静に言う。
「ここまで来たらもう無理でしょ、少なくともあなたにはもう何もできないんだし」
しばらく考えて出た言葉は…
「母さん、おれの分身になってもらえない?
もうおれ母さんにしか頼めないんだ」
おれがちせを救わないと、誰が救うんだ。
「でも、どうやって?」
「母さん、代わりに書き込みしてくれないかな?」
「で、なんて書くのよ?」
「タイトルは、山姥よりって書いて欲しいんだ」
母親が目を見開く。
「わたしお婆ちゃんじゃないのに。それに今どき山姥ってねぇ」
嫌そうに愚痴をこぼす。
今のちせを消し去るには、人間じゃだめなんだ。
普通の相手じゃあいつの心にもう届かない。
冗談で言ってるんじゃない、そう理解してくれた母親は、山姥としてちせとやり取りをしてくれた。
おれが言うとおりメッセージを打ってくれた。
何度かのやり取りで目的は果たせた。
「はい、ちゃんと呼び出したわよ。これでよかったのね」
「うん、ありがとう」
「で、わたしが彼女に会ってあなたが消えたわけ、
目が見えなくなったことを伝えたらいいのね」
おれは頭を下げる。
「悪かったって謝っておいて。おれずっと見守ってるから、死なないで生きるようにって」
「あそこまで落ちて、それはどうだろうね」
母親はそう言い残して病室を出ていった。
待っている間、あの二週間のことを思い出していた。
楽しかった時間。
あの時間が続けば、ちせは前のままだったのだろうか。
たとえこんなおれだと気づいても笑顔でいてくれたのだろうか。
「ちせ…」
小さく呟く。
時間だけが過ぎていく。
同時に不安は増していく。時計の針は止まらない。
薬が効いてうとうとする。
コツン。
音がして母親が起きてるかと、声をかけてきた。
「母さん、こんな夜中までどこに行ってたの!」
母親がおれを睨み付ける。
「何言ってるの、頼まれたことちゃんとしてきたんだからね」
おれはほっとした。
もう大丈夫なんだ。
ちせは死なないんだ。
安心しすぎて、それから自分が何を話して、母さんが何て返事をしたのか覚えてなかった。
ちせのことでいっぱいの頭には何も入ってこない。
真っ暗な目の前に笑顔のちせが映る。
また、あの笑顔のままの彼女に戻ってくれる。
ちせの笑顔に浸っていた。
そのとき母親とは違う声が耳に届いた。
「なんで話してくれなかったの? わたしじゃ頼りにならなかったの?」
突然の声。
これは…
見えなくても、わかる。
愛しいこの声。
おれの心の居場所が、そこにあった。




