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彼女が連れてきたのは公園のすぐ近くにある病院だった。
「さあ、入って」
彼女が非常用ドアを開ける。
年末だからなのか病室の明かりも少なく薄暗い。
わたしは彼女のあとをこそこそついていく。
彼女がこっちを見て指をたてて、しーって合図をした。
彼女の後ろを忍び足で病室に入る。
病室の電気は消えていた。
彼女が口を開く。
「まだ起きてる?」
「うん、起きてるよ」
男性の声がした。若い声。
「母さん、こんな夜中までどこに行ってたの?」
この女性の息子さんのようだ。
「なに言ってるの、頼まれたことちゃんとしてきたんだからね」
「あ、ありがとう。うまくいったんだね、よかったよ」
わたしはこの声に聞き覚えがあった。
この懐かしい声。
「もうちせちゃんは大丈夫みたいよ」
そう、あの声は…
わたしの初恋のひと、
初めて付き合ったひと、
そして勝手に消えていったひと。
彼女が部屋の電気をつける。
病室のベッドにいたのはあのひとだった。
顔がこちらを向く。
わたしと目があう。
わたしは何を言ったらいいのかわからない。
伏し目がちにしていたら、あのひとが口を開いた。
「ちせ、元気だったんだね? もう大丈夫だよね?」
わたしは、相づちだけする。
「母さん、彼女は前と変わってなかった?」
え!?
わたしは驚いて顔を上げ、彼の顔を直視する。
間違いなくふたりの目は合っているはず。
なのに彼の表情は変わらない。
これって、あのときとまったく同じ。
学校ですれ違ったあのときと同じ光景だっだ。
女性が笑顔で言う。
「ぜーんぜん変わってなかったわよ。
あなたが言った通り中身は昔のまんまだった」
「そっか、やっぱり変わってなかったんだね」
と嬉しそうに彼も笑顔で答えている。
あのときと同じ笑顔。
わたしの脳裏によみがえる記憶。
わたしと彼は幼稚園からの幼なじみだった。
あの頃はよく遊んでた。
だけど中学の時に隣町に引っ越しして、
それから連絡取ることもなかった。




