とある男の日記
お願いだ。どうか落ち着いて、彼の話を聞いてやってくれ。彼に罪はないのだから。
彼は、ほんの少しの間違いと野心で間違いを犯してしまっただけなのだ。いや、そもそもそれを間違いと呼ぶ事すら間違いなのだ。
彼に非は無い。寧ろ相手の方にあるのだ。大きな体をゆすって夫に腰掛ける彼の妻や、まるで軽蔑したような目でこちらを見る子供は、間違いなく彼を見下していた。彼に非は無いのだ。彼に非は無いのだ。
彼を責めないでくれ。これは無意識下の、ごく当たり前な本能的欲求だったのだ。弱者が強者に対して恨みや怒りを覚えるのはこの世界の創り方からしてなんらおかしくなく、むしろ覚えないほうが異端と言えるだろう。
お願いだ。どうか落ち着いて、私を手伝ってくれ。君は私の指示する通りにその荷物を運び出し、言われた所に運べば良いだけなのだから。
私は後悔などしていない。寧ろ清々しい! 何しろこれで邪魔者はいなくなったのだ。私の邪魔をするものはいなくなったのだ。
私に着せられる罪は無い。なぜなら私は何も神に背く行為などしてないからだ。今メシアの下に跪いて許しを請えと言われても、私の体からは一つも罪の証など出ないであろう!
私を、恐れないでくれ。ああ、私を侮蔑の表情で見ていた子供達が今ではがたがたと体を震わせ、奥歯を鳴らしているではないか。そんなに青ざめないでくれ。そんな目で私を見ないでくれ。見ないでくれ、見るな、見るんじゃない! 私は何も悪くない、私は何も悪くないのだ! たかが、たかがそんなことではないか!
ああ、子供達が逃げていく。追いかけなくては。あやさなくては。ああ、君はまだそこにいてくれ。その美しく安らかに眠っている妻に、優しく布団を被せてあげてくれ。
それを受け入れるか受け入れないかは当人の自由です。かしこ。




