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第三章(1)

 鼻腔につく濃い鉄の臭い。思わず吐きそうになるのを堪え、インヴェルノは近くへと寄る。

「インヴェルノ、大丈夫か」

 心配そうに眉を寄せるアラノに、大丈夫と返し倒れている女性の横にかがむ。

 見開かれた目は、すでに瞳孔が開いており暗い。唇や爪が青くなっており、首筋に手を当てるまでもなく既に亡くなっていることが分かる。

 そっと手を伸ばし、瞼を降ろしてからインヴェルノは周囲を探る。

「アラノ、どうだった?」

「来たときにはこの女の死体しかなかったな」

「そうか…」

 四肢は固くなっており、死後数時間は経っていると見える。耳や目から、体液まで少しずつ出始めているため、血の臭いに交じって異臭までする。

 臭いに顔を顰めながらも、インヴェルノは魔力の残りを探ると、薄ぼんやりと、視る事が出来た。

「これは」

「探すか」

「うん、お願いします」

 端的に告げられたの言葉に肯き、インヴェルノはもう一度女性を視た。女性の胸の辺りに色濃く残る魔力。黒く、禍々しい濁ったオーラに顔を(しか)める。


「すみません、どいてください」

「どいてください!騎士団です、道を空けてください」

 なんとか、人垣を抜けた騎士達が見たのは、ベンチ横で既に亡くなっていると思われる女性と、女性の横でしゃがんでいる、おそらく魔法使いの少年の姿だった。

「うっ先輩これ・・・」

 猛然と自分の前を歩いていた後輩は、口元を押さえ青い顔で吐き気を堪えている。

「下がって、市民をこれ以上近づけさせないようにしろ」

「はい」

 覚束ない足取りに少し不安になるも、騎士・デリクは女性の横でしゃがんでいる少年の傍に寄った。

「先程の悲鳴は、彼女か?」

 今朝みた魔法使いの少年だと確認すると、同じように横にしゃがんで問いかけた。

「違うと思いますよ。悲鳴をあげたのはあっち」

 鮮やかな碧い色の髪が翻る。少年が指さす方向を見ると、意識を失ったのだろうか、青白い顔の若い女性が、壮年の男性に抱えられていた。

「たぶん、あの人が第一発見者」

 そういって少年は、翡翠の目を細めた。


 ◇◇◇


「本日、六人目の被害者が発見されました」

 騎士のデリクは、集まった騎士全員に伝わるように大きな声で、先程発見された六人目の被害者について読み上げる。騎士団長だけでなく、市長と、魔法使いの少年と、青年もいるのを視認してから、続ける。

「被害者は、ミリア・アボット、二十六才女性。カーラ市民で、料理店アボットの一人娘だそうです。第一発見者の女性はミリアの友人セレストと、その父親、エイブラハム・オードリーです」

「今は?」

「現在は家で事情聴取をしています。私が聞いたときは取り乱していて、話を聞ける状態ではありませんでしたので」

「そうか」

「ミリア・アボットはセレスト・オードリーと発見された場所、広間の北側ベンチですね。そこで待ち合わせをしていたそうです。セレストの父親は広間北側の大通りで屋台を出していたので、二人に自分の屋台で出すデザートを上げようと一緒についていったそうです。その時に悲鳴があがって、急いで駆けつけたところ娘が気絶していて、ミリアが亡くなっていた…私が聞けたのここまでですが」

「続きは自分が!」

 騎士団の面々が集まる部屋に入ってきたのは、先程までデリクと一緒に居た後輩騎士・リオンだ。

「リオン、聞き出せたのか?」

「はい、もうばっちりと!!」

「そうか、なら話せ」

 騎士団団長ブラッドレーに促されて、リオンは所々つっかえながらも、話し出した。

「えっと…セレストはお昼の十二時に北側の広間でミリアと待ち合わせをする約束をしていたそうです。それで、北側広間に行くと、約束の場所に現れないので、近くを探してみると、ベンチの後ろに倒れているのを発見したそうです」

「……そうか」

「セレストは大変取り乱していまして、今は泣き疲れたのか眠っています」

「わかった、ありがとう。みんな、聞いたか?」

 一同肯くのを見て、ブラッドレーは声を張り上げた。

「みんな、周辺の聞き込みを行え。必ず一人は、見ているはずだ。あれだけの血を被害者の髪につけたんだ。臭いでもわかるはずだろう。近くに居た者はすでに、身柄を拘束したな」

 後半の問いにデリクは首を縦に振る。

「よし。副団長は周辺の聞き込み、及び警備の指揮をとれ」

「諒解しました」

 副団長と呼ばれた、団長と同じ年ぐらいの男は、端的に言葉を口にすると、そのまま部屋にいた半数を伴って、出て行った。

 ブラッドレーは、副団長の背を見送ると、静かに室内を見回した。みんな、緊張で強張った面持ちで団長を見る。

「お前達はこれから、被害者の近くに居た者達へ事情徴収をしてもらう、いいな」

「諒解です」




 

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