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第一章

 魔法学院より南に下った先にあるカレンジュラ市のある街、カーラでは、月に一度行われる大市(おおいち)で賑わっていた。

「うわあ、賑やかだなあ」

 大通りは多くの人で溢れかえり、端に所狭しと露店が並ぶ。食材を売ってる者、衣服を売ってる者、宝石や装飾品等を売ってる者など様々な店で溢れかえっている。

 この街、カーラの住人だけでなく、市外からも多くの人が来ているのだろう。売り子の呼び声も威勢良く飛び交い、人々の顔は活気に満ちていた。 

「ねえねえそこの坊ちゃん方」

「俺?」

 人混みをかき分けながら進むインヴェルノとアラノは、近くで大きな声が聞こえたので横を向くと、糸目の男が手招きしていた。

「そうそう、そこの青の坊ちゃんと黒のお兄さんだよ」

「坊ちゃんて…」

 大きく手招きしながら、糸目の男は満面の笑みで二人を迎えた。

「どうだい?坊ちゃん、この翡翠の耳飾りなんてどうだい?」

 男は、インヴェルノ達が自分の露店までくると早速商品を勧めだした。手に持つのは、小さな翡翠を埋め込んだ耳飾りだ。

「坊ちゃんの目に合うだろう?今日出会ったのが運命さ。買っていきなよ」

 ただでさえ細い目を更に細くして、男は耳飾りを勧める。耳飾りは、あまり華美でなく、質素なものだ。不思議と惹かれて、「値段は?」とインヴェルノは思わず聞いた。

「銀五枚さ」

「高い!」

 この国の通貨は、高いものから順に金、銀、銅、粒だ。粒十個で銅一枚、銅十枚で銀一枚だ。手持ちは一応たくさん持ってきたがいくらなんでも銀五枚は高すぎる。

「こんな小さいの銀五枚もするなんておかしくないか?もう少し安くできない?」

「そうだなぁ、じゃあ銀五枚」

「変わってない!」

 思わず喚くと男はにこにこと笑った。

「まあまあ、坊ちゃん。こいつはただの耳飾りじゃ・・・あれ、坊ちゃん。その服の紋章は?」

 男は、細い目を精一杯見開いて、インヴェルノの薄汚れた服を指さす。そこには、マントの下に隠れた服に、金色のバッジが胸元に輝いていた。

「まさか、魔術師かい?」

 金色のバッジは少し汚れているが、しっかりと魔法協会の、魔術師であることを示す、蔦と薔薇、ライオンと鷲の模様が彫られているのが見られる。

「ああ、そうだ」

 問いにはインヴェルノではなく、アラノが答える。

「そうなのかい。へぇ…なら、銀一枚でいいよ」

「えっ本当!」

「ああ」

 男はにこにこ笑って、インヴェルノに耳飾りを渡した。

「やった!じゃあ銀一枚ね」

「毎度」

 ポケットに入れてあった財布を取り出し、インヴェルノは男に通貨を渡す。

「お兄さんも、この首飾りなんてどうだい?きっとお兄さんに似合うよ」

 男は、赤い、ガーネットの首飾りをアラノに勧めたが、アラノは「いらない」と首を横に振った。

「おじさん、いいものをありがとう」

 そろそろ行こうと促すアラノを制し、インヴェルノは男に礼を言った。翡翠の耳飾りはすでに、ポケットに仕舞ってある。

「いいや。その耳飾りも魔術師に持ってもらえて喜んでるさ」

 男はにやっと、インヴェルノとアラノに笑いかけた。

「これから先、坊ちゃんたちにローズマリア様の御加護がありますように」

「おじさんにもローズマリア様の御加護がありますように」

 同じように返すと男はにこっりと笑って「色々気をつけなよ」とまた笑った。

 インヴェルノとアラノは、再び街の奥を目指して人混みの中へと潜った。

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