終章(5)
ソフィアが泣き止むと、インヴェルノとアラノでカインの遺体を街まで運んだ。
運び終わると、一旦遺体安置所で預かってもらい、明日お通夜をすることになった。
事の次第を市長に話すと、すぐにリズヴェルの魔法を解くことになった。
そのため、家族全員にリズヴェルの眠る部屋に集まってもらうよう、インヴェルノからお願いされ、家族全員が揃った。
まだカインが亡くなった悲しみがある中、インヴェルノは静かにリズヴェルにかけられた魔法について説明した。
「リズヴェルさんにかけられた魔法は、第1級禁忌魔術に指定されている、死の魔法です。この魔法は、術をかけた相手を永遠の覚めることのない夢の中に閉じ込めて、じわじわと殺す魔法です」
淡々と説明するインヴェルノに、ソフィアがすがりつく。
「でも、解く方法はあるんでしょ?」
「ソフィア、やめなさい」
インヴェルノの服を掴んで離さないソフィアの手を剥がすと市長は静かに続きを促す。
「解く、方法はありますが・・・リズヴェルさんはもう何日この魔法にかかってますか」
「一カ月以上だ」
家族を代表して市長のアーベルが答える。
「・・・例え解いても、保って一日でしょう。それでも、いいですか」
「ああ、構わない。解いてやってくれ」
「うそ、嘘よ! 姉さんは、助からないの?」
取り乱すソフィアを痛ましそうにみて、インヴェルノは頭を下げる。
「申し訳ありません。この魔法は名前の通り、人を殺す魔法です。普通は知られてさえいないはずの魔法なんで、研究もされていません。一カ月以上も飲み食いせずいた人の体を回復させる魔法もなく、この魔法はかけられる前に術師を殺せば回避出来ますが・・・すみません、現時点でリズヴェルさんを助ける方法は、ありません」
嗚咽が響く部屋でインヴェルノは静かに頭を下げ続けていた。
「インヴェルノ君、顔をあげてくれ」
「はい」
硬い表情のインヴェルノを見ると市長は泣きそう顔で言った。
「娘を、もう解放してやってほしい」
その言葉を聞くと、インヴェルノは一度目を閉じてから、しっかり市長と目を合わせた。
「わかりました」
インヴェルノはリズヴェルの眠る寝台に近づくと、リズヴェルの額に手を当てた。
「深き夢よ。それは偽りの夢。魂の在るべきところへ戻れ、魂導」
翡翠色の優しい色がリズヴェルを包む。
すると頑なに閉じられていたリズヴェルの瞼が開き、ぱちぱちと瞬きをした。
「まあ、まあ、リズヴェル!!」
母親のリリアがすぐにリズヴェルの手を握ると、弱々しいが握り返す娘の姿をみてアーベルも、妹のソフィアも涙ぐんだ。
「お、かあさん、おとうさん。ソフィア」
「なあに? どうしたの、リズ」
優しい声で、必死に泣かないようにしている母親をみて、リズヴェルは泣きそうな顔をした。
「しあわせな、夢を見てたの。カインと結婚して、みんなとくらすゆめ」
ふうと、億劫そうに息を吐くと、リズヴェルは家族をみて微笑んだ。
「しんぱい、かけて、ごめんね」
リズヴェルの目尻から一粒の雫が滑り落ちると、それっきりリズヴェルは二度と起きることはなく、翌日静かに息をひきとった。