終章(3)
ソフィアは魔女に背後にまわられるのは危険だと判断し、対面に立つ。
「お嬢さん。素直なのは美点よ。ところで、姉と言ったわね? 誰のことを言ってるのかしら? 」
小首を傾げる魔女に、ソフィアは怒鳴りそうになるのを抑えて喋った。意図せず低い声になる。
「リズヴェル・カヴァレーラよ。あなたでしょう、姉さんに変なことしたのは」
「リズヴェル? ああ、もしかしていつだったか、勝手にここに入ってきた子のことね。変なこと、確かに変なことはしたわねえ」
くすっと笑うと魔女は、艶やかな髪を肩から払った。
「それで? お嬢さんはどうしてここに来たのかしら。私いまとっても忙しいのよ」
「それでって! 姉を早く元に戻して!」
激昂するソフィアを魔女は煩そうに見ると魔女はため息をついた。
「ちょうどいいと思って招き入れたけど随分よく喋る小鳥だこと。お嬢さんの姉さんはね、勝手にここに入ったのよ? ここは私とレイの場所なのに。だからそれ相応の報いを受けてもらっただけだわ」
「報い・・・?」
「姉妹って似るのねえ。でもあなたには死の魔法はかけないであげる。あと一つでいいのよ、心臓は。あと一つでいいの。あなたでおしまい。もうカインは必要ないわね。そろそろ鬱陶しかったからちょうどいいわ」
魔女はあっという間にソフィアとの距離を詰めると嫣然と笑った。
「手間が省けて良かったわ。私にそれちょうだい」
「きゃああああああああああ」
◇◇◇
「カインさん大丈夫ですか」
「ああ、大丈夫。・・・君は魔術師か」
「はい。そうです。魔術師のインヴェルノと言います」
「そうか・・・インヴェルノ君、どうかリズヴェルを助けてくれないか
カインは 、目の前にいる少年に縋ることしか、方法が思い浮かばなかった。
眠り続けるリズヴェルを助ける方法がわからず、忌まわしい魔女に頼っても逆に利用され罪深いことばかりを自分の意思ではないが、命令されるまま、実行してきた。自分を止める術が、カインにはわからなかった。
「リズは、ずっと眠り、続けている。絶対にあいつが・・・あの魔女が関わっているはずなんだ。頼む、リズを・・・」
真剣に傾聴する魔術師の少年に、カインは自分が知っている事を全て話した。
インヴェルノは、うなづくと力強くカインの手を握った。
「カインさん。今の状態よりは、よくなることは約束します。」
カインの手を握りながら、インヴェルノは伝えようか、やめておこうか、逡巡した。
その時だった。
全てを切り裂くような、女性の悲鳴が森に響き渡った。
その声を聞いたカインは、今までの弱々しさを一変し、急に起き上がったかと思うと、すぐに駆け出した。
一体どこにそんな体力を残していたのかと思うほど、全力で走った。カインの後を置いながら、インヴェルノは後ろを走るアラノに頼んだ。
「アラノなら、俺たちより早く走れるだろう! 頼む、助けてやってくれ!」
「わかった」
アラノは、すぐに駆け出すと、あっという間にインヴェルノ達を追い越して行った。
悲鳴がした方角はわかっても、どこから聞こえたのか はわからなかったが、前カインと出会った教会から、またあの魔力を感じ
たからだ。
「きっと教会だ」
インヴェルノの声が聞こえたのか、カインは迷うことなく、教会まで走った。