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第四章(5)

 清らかな風が吹く。私は愛し子の気配、そして隠しきれぬ圧倒的な力を感じて顔を向けた。

「樹木のお姉さん!」

『御子、どうしたの? まあ・・・どうされたのですか!』

 弱々しくインヴェルノに体を支えられているアラノの姿に、樹木の精霊は大樹から飛び降りた。

「すみませんが、ここで休ませてください、お姉さん」

『それは構わないけれど・・・』

「ありがとう」

 インヴェルノはふわりと微笑むとすぐにアラノを大樹の下に寝かせた。アラノには意識がなく表情は苦しいのか眉を寄せている。インヴェルノはアラノの横に座ると、パンと両手を打った。

「其の身に流るるは美しき水 全ての命を育み慈しむ 今一度壊されし身を癒し給え 流籠」

 突如アラノの周りに大きな水泡が次々と現れ、アラノを包む。水泡はアラノを包むとゆっくりと吸収されていく。朧々と紡がれる声は美しい音楽のよう。樹木の精霊が聞き入ってるといつの間にかアラノの傷は癒されていた。

「・・・すまない。ありがとうインヴェルノ」

「どういたしまして。大丈夫?」

「ああ」

 ゆっくりと起きあがると、精霊の源の樹木に寄りかかる。

『一体どうしたのですか?』

「さっき六人目の被害者がでたでしょう。その時に魔力の残滓があったので、追ったのです」

『まあ、どこにあったの?』

「カーラの端っこにある小さな森だ」

『確か教会のある所ですね。でもあそこは廃墟になって人の住めるような所ではないはずですわ』

「だからこそ、根城にしたんだろうね」

「どうする? インヴェルノ」

「うーん・・・あの男の人も気になるからなぁ・・・。あの魔力はあの人の本来のものじゃない気がする」

「・・・どういうことだ?」

「なんらかの形で変質したか・・・若しくは無理矢理植え付けられたか、変えられたか。ううん、奥の方に綺麗な緑色の魔力が見えた。そこを潰すかのように真っ黒い魔力があった。てことは、植え付けられたものか・・・?」

 ぶつぶつと呟きながらインヴェルノは木の根元を歩き始めた。

「まったく、こけても知らんぞ」

『こけるのですか』

「あいつの悪い癖だ。一度考え込むと周りがみえなくなる」

『まあ・・・ところで男の人というのは? 教会に住んでたのですか」

「ああ。教会に若い男が居てな。その男から被害者の体に残ってた魔力と同じ魔力を感じたんだ」

『では、その者がこの街の子達を殺していたのですね!!』

 街の若い子達。見守ってきた子達。例え己の姿が見えずとも生まれたときから見守ってきた。もう六人だ。人なぞどうでもいいという精霊は多いが、何百年もここに住み続ければ愛着も湧く。街から大切にこの樹は守られてきたから一層、この街の者達は愛しい。我が身からあふれ出す激情を抑えることが出来ず殺気をとばす樹木の精霊を、アラノが力で抑える。

「落ち着け、そうとは決まってない」

『ですが・・・! その男の魔力なのでしょう! 魔力はそれぞれ違います! 同じものはない、そうでしょう!?』

「そうだが・・・少し様子がおかしかったからな」

『どうゆうことですか?』

「リズって知ってるか?」

『・・・リズですか? フルネームは?』

「フルネームまではわからない。教会にいた男が、リズという者を助けようとしたんだと叫んでいたからな。詳しく聞く前に黒い薔薇に邪魔されたんだ。男も驚いてたから、あれが出した魔術ではないのだろう」

『・・・その男はどのような容姿でしたか? 茶髪に青目で騎士の姿をした者ではないですよね?』

 樹木の精霊は激昂していた先程の姿とは打って変わって必死に聞いてくる。

 男の外見は酷くやつれた顔だったが、確かに茶髪に青目だったように思う。着ている服は汚くて、元がどのようなものだったが判別しにくかったが、剣は持っていた。

「茶髪に青目だったな。服は汚れていたが、剣は確かに持っていた。・・・知っているのか?」

『もしも・・・もしも私の知っている子だったら・・・。その子は今行方不明です』

「行方不明? いつから居ないんだ」

『もう・・・一ヶ月は経ちます。騎士団所属で・・・幼馴染みにリズヴェルという女の子。ああ、なんてこと! 愛称はリズだわ!』

 小さく悲鳴をあげると樹木の精霊は崩れ落ちた。咄嗟にアラノが支えようとするが間に合わなかったが、いつの間にか後ろに来たインヴェルノが後ろから支えていた。

「大丈夫? 精霊のお姉さん」

『ああ、御子! 御子! 助けてください! あなたが教会で見たのがあの子だったのなら、どうか助けてやってください!!』

「誰かわかったのですか?」

『その子が、騎士ならば・・・名前はカインです。カイン・ディ・ヴァイオです。リズというのは、きっとリズヴェル・スミスだと思います。リズヴェルは市長のアーベルの娘です!』

「そうなの!? その人に会える?」

『いいえ、まだ話すことは出来ないんじゃないかしら』

「へ?」

「どうゆうことだ?」

『リズヴェルは、ずっと眠ってるの。一ヶ月以上も眠り続けてるの。どんな医者に診せてもわからない不治の病に罹ったってみんなが噂してるわ』


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