表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/26

第四章(3)

「早く、早く」

「判ったから押すな」

 背中を押すインヴェルノを宥め、アラノは先へと続く扉を開いた。

 耳障りな音が辺りを響かす。

「うわあ」

 扉を開けた先にはぽっかりと闇が広がっていた。

 何処まで先があるのか判らない、でたらめにクレヨンで塗り潰し続けたかのような空間があった。

 背後から除いたインヴェルノがアラノの服を握りしめる。

「行くぞ」

 アラノは、周りに炎を出現させて闇の中に身を浸した。


 自分の靴音とインヴェルノの靴音が響く。背後を見ると、炎に照らされた、心なしか青白い顔が眉を寄せて前を見据えていた。

 炎があるとはいえ、一寸先が見えない暗闇は誰だって恐怖を持つというのに、この子どもは毅然と前を見続けている。アラノは前を向いてふっと笑んだ。



 まるで生きてるみたいだ。

 徐々に慣れてきた目を瞬かせ、インヴェルノは周りを見渡す。自分とアラノの周りは、アラノが創り出した炎が柔らかく照らしてくれているが、その先は真っ暗だ。まるで、手元にその色しかなかったから、やけくそに塗りつづけたみたいだと思った。その際限なく塗られた色に自分も塗りつぶされてしまいそうで、肌が粟だった。

 背後から何かが襲ってきそうで、何度か後ろを振り向いたが直ぐに前をむいた。

 闇は、別に怖くない。

 闇は、いつも俺を優しく抱きしめてくれるから。

 優しくて、柔らかく包み込む、さながら揺りかごのような心地よさを知っている。

 だから、怖くない。

 そのはずなのに、先程から背筋を悪寒が走る。息を吸うのが段々と苦しくなってくる。ねっとりと絡みつくような魔力は、教会に入ってから一段と増した。ついさっき居た部屋は、腐臭と血、吐瀉物で気持ち悪かったが、それが無くなった今、一層濃い魔力が呼吸を妨げる。

 何度か深呼吸をして、インヴェルノは意思を研ぎ澄ませる。雑念を払い、ただ己を蝕む魔力の根源を探る。汗が頬や首、背中を伝う。アラノの服を握りしめた手を、更に強く握りしめる。どれほど経っただろうか。時間に為てみればほんの一分だったのかもしれない。インヴェルノは、魔力がより強い場所を突き止めることが出来た。

「アラノ、真っ直ぐ進んで」

「わかったのか」

「うん。見つけたよ」

 アラノは首肯すると、迷い無く真っ直ぐ進む。インヴェルノは掴んでいた服を離して後に続いた。廊下には幾つもの小部屋があった。扉が無かったり、壊れていたりしてはいるが、所々壁に施された装飾は、薔薇を象っており、長年風雨に晒されてきただろうに、とても綺麗だった。

 闇の中、橙に照らされて浮き出た薔薇は、外に咲いていた薔薇を模したものだろうか。注意深く観察しながら歩いていると、少しずつ根源に近づいてきた為か、また息苦しくなってきた。

「気持ち悪い」

「・・・大丈夫か?」

 振り返り、体調を尋ねてくるアラノに大丈夫だと返してから、インヴェルノは額を伝う汗を拭った。

「ここにいる」

 教会の奥、おそらく高位の聖職者が使っていたのだろう、割と大きめの部屋が廊下の突き当たりにあった。扉は閉まっており、中から僅かに物音がする。アラノと顔を見合わせて、互いに肯き合うと扉から離れる。

「デトナーレ」

 インヴェルノが唱えると、大きな音をたてて、扉が吹き飛んだ。そう、文字通り吹き飛んだので、辺りは長年放置されていたからだろう、埃が舞い上がり、暗いため元々見えにくかった視界が余計狭まった。埃は相手を不利にさせるだけでなく自分たちも不利にさせた。今後は古い建物を吹き飛ばすときは気をつけようと、心に刻み、アラノの向ける視線は無視し、前方を注視する。

 ゆらり、と闇が動いた。

 そう認知するのと同時に、インヴェルノとアラノは後方に吹き飛ばされた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ