表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/26

序章

 






 奇跡は起きるのではない。起こすものである。








「ねえ、カイン」

 栗色の髪を、彼女は珍しくおろしていた。何処までも続く赤い夕陽を見て、彼女は僕をいつものように呼んだ。

「何?」

 いつも、僕は彼女にだけ、素っ気なくなってしまう。優しくしようとするけれど、何故か素っ気ない態度になってしまう。それでも、彼女は微笑んでくれる。

 ゆるくウェーブがかかった髪は、夕陽に照らされて少し赤みがかった茶色になった。

 僕には、それが赤い、赤い血に見えて仕方がなかった。「ねえ」と彼女が呼びかける。僕は、彼女の赤い髪から目をそらせず、じっと見つめていた。

「小さい頃からのね、」

「うん」

 彼女の顔は、赤く染まっていた。血色が良く見えるはずなのに、彼女の頬は青白かった。

「夢だったの」

「夢…?」

 窓から差し込む夕陽は、赤い。窓も、部屋も、彼女の寝るベッドも、僕も、全てが、赤い。

「小さい頃からの、夢だったのよ…」

 何が、と聞こうとしたときに彼女の頬に雫が伝った。赤い髪にひどく青白い頬。そこに伝う、雫は、夕陽のせいだろうか。ひどく、紅かった。

 僕はただ、見つめていた。

 ぼんやりとした頭でとらえた彼女の頬を伝う赤色。ぽつりとシーツに落ちる赤い雫は、今まで見たこともないくらい、とても、綺麗だった。



  ◇◇◇


 ふっと意識が鮮明になる。

 何が、と声に出すと意外と耳に響いた。

「イン……」

「えっ?」

 ふと横を見ると、紅い目と合った。

 そういえば、今は講義を聴いてる途中だった、と思いだす。慌てて前を見ると、講義をしている人物と目があった。銀縁眼鏡の奥にある、鳶色の目が孤の字になる。

「あ、あれで微笑んでるつもりなのか」

 小声で、隣のアラノに言う。微笑んだ、というよりも顔が歪んだ、という方がしっくりくる顔を指して一応確認してみる。

「本人は綺麗に微笑んでると思ってるだろう。ロイの講義中に寝るインが悪い」

 対するアラノも小声だ。前の生徒が眉をひそめて後ろを振り返ったのに、黙礼してからインは、文句をたれた。

「起こしてくれたっていいじゃないか、アラノ」

 椅子に座っても、自分より頭二つ分高い隣を見ると彼は紅い目を瞬きして、ゆっくりと答えた。

「起こした。何度も。うなされてたし」

「えっ、そうなのか」

 こくり、と頷いて「だが、インは全く起きてくれなかった」と眉を寄せた。

「あーそうですか、すみませんでした」

 額を寄せ合って小声で話していても、周囲には聞こえる。今度は後ろの席から、咳払いが聞こえたのに流石に気まずくなり、双方ともに講義に集中することにした。

  

 先程の夢は何だったのだろうか。

 一ヶ月ほど前から続くこの夢は、ひどく胸をざわつかせる。

 何かよくないことがおこる予感がし、酷い焦燥感が胸を駆る。

 夢の意味する事を考えている内に、インはまた、瞼が重くなってきたのに気づいた。口の中を噛んでも、歯を食いしばっても、とろとろと眠りに誘われる。

 薄れゆく意識の中で、インは夢の中の自分、カインのことを考えた。

 

  


一部変更しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ