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猫の女王様  作者: 瑞雨
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Ⅵ ロシアンブルー


昔々、ではなく今よりほんの少しだけ前に、ひとりの少女がおおきなお屋敷に住んでおりました。少女は大人というには幼く、子供というには落ち着いた、そんなお年頃に御座いました。少女の瞳はまん丸なグリーンで、グレーのようなブルーの御髪はとても艶やかでキラキラ光って見えました。ワンピースの裾から見える手足は何色にも染まっていない真白に御座いました。




大きなお屋敷の大きなお部屋にひとりの少女とひとりの男が向かい合って立っている。大きな窓から眩しい太陽が顔を覗かせている。


「本日は御足労頂き誠に有難く存じ上げます」

「本日は、ご足労頂き、誠に、ありがたく、存じ上げます」


青年の後に続いて少女も繰り返す。


「伯爵様におかれましては、」

「伯爵様に、おかれましては、」

青年が礼をするように、少女もワンピースの裾を指でつまみ上げ、ちょこんとお辞儀する。


「大変御機嫌麗しゅう、」

「たいへん、ご機嫌うるわしゅう……、」

「誠に、」

「まことに……、」


少女は下げていた頭を勢いよくあげ髪をかき混ぜた。


「………、あ~、もう!!やめやめ!!」


少女は両手を上げてくるりと後ろを向いた。そんな少女の様子に青年は眉をひそめ、ため息をついた。


「お嬢様」


窘める青年に顔を向けて少女はむぅっと口を尖らせた。


「だぁってぇー」


少女はぷいと顔を背けて、それらしく腕を組んだ。


「…こんな堅苦しいのもうイヤ」


少女はキラキラ光る窓にとてとて、と近づくとくるっと回ってワンピースの裾をつまみ上げる。



「あら皆様、ご機嫌よう」



ちょんと小首を傾げてにっこり笑顔。


「ほら、これで良いじゃない」


ぱっと裾を離し、少女は肩をすくめた。青年は相変わらず顔をしかめたままである。


「今回はお嬢様御生誕のパーティーのために各貴族達がお集まりになるのです。礼儀作法はきちんとして頂かないと困ります」


大きな窓には大きなカーテン。少女はレースのカーテンを体に巻き付けると、青年の方を向いた。


「みんなあたしのお祝いに来るんじゃないわ。あたしと仲良くなるためじゃないの。この家と仲良くするためにやって来るの」


窓を通して入ってくる陽は少女の髪をキラキラと輝かせ、少女の髪はブルーに透ける。


「あたしが不作法で誰が困るの。だぁれも困らないわ。だってみんな家しか見てないもの」


少女はまん丸な瞳を閉じた。青年は少女に近づくと、少女に巻きついたレースのカーテンをやんわりとはずす。少女は青年の持つカーテンと青年の間にふわりと閉じこめられた。背にあたる陽が暖かい。


「私が困ります」

青年の言葉に少女はショックわ受けたかのように目を見開いた。


「來も、來も、この家しか見てないのね!あたしが名家の名に傷をつけたら困るから、だから!!」


少女は青年から視線を外した。青年は少女を見下ろし、優しげに微笑んだ。そして、まるで恋人に話しかけるかのように柔らかい声色で少女の名を呼んだ。


「君の礼儀がなってない、と貴族たちが口にして、君が傷つくのを見たくないんだ」


少女は俯いたままカーテンを握る。レースに皺が寄った。眩しい光が青年の顔を照らす。


「家のことしか考えていない莫迦な貴族たちが君を傷つけるのを僕は見たくないんだよ」


少女は肩を小さく震わせながら青年の胸にしがみついた。



「ごめんなさい、來。ごめんなさい」


青年は少女の背に手を回し苦笑した。


「そんな言葉よりも違う言葉が聞きたいな」


少女は青年に抱きついたまま、真っ赤に染まるはにかんだ顔を上げた。


「ありがと、來」

「どう致しまして」


青年と少女は顔を見合わせて笑った。


「さぁ、もう一度初めから練習しましょう」

「…………」


青年は部屋の中央へと歩き出した。しかし少女は窓に背を向けたまま動かない。


「お嬢様?」


青年は動く気配のしない少女を不思議に思い、足を止め振り返った。そして少女のぶすっとした顔を見て、ふぅっとため息を吐くと、困ったように笑った。


「先に休憩にしましょうか」


青年はしょうがないと言う顔をして笑った。


「……來の作ったクグロフが食べたい。レーズンたっぷりの甘いの」


青年は小さな子を見るかのように優しい瞳で少女を見る。


「はいはい、かしこまりました」


青年はおどけたように礼をした。少女は顔を固くしたまま青年に少し近づく。


「紅茶もいれてね。ミルクたーっぷりの濃いのよ!」


また一歩青年に近づき、ピンと指を上げた。



「「お砂糖は二つ。」」



重なった声に二人はクスクス笑った。部屋を後にする青年のあとを少女は楽しそうに付いていった。バタンと閉まった扉は太陽の光でキラキラと輝いている。




さてこの後ですが、お嬢様はパーティーでとても素晴らしい御挨拶をなさったそうに御座います。元々お嬢様は大変お賢い方に御座いましたし、礼儀作法など完璧に御座いましたから、このような練習など初めからあってないようなものに御座いましたけどね。


さぁこれにてお嬢様と來様のお話はお終いにしましょう。


ロシアンブルーはほっそりとスリムで、口は独特の形で、ロシアンスマイルと称されるように、笑っているような形をしている。

内気で優しく、頭が良い。ちょっと警戒心の強い面もある。


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