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猫の女王様  作者: 瑞雨
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Ⅲ エジプシャン・マウ

昔々、とてもとても熱く、砂漠地広がる国にひとりの年頃の姫がいらっしゃいました。姫様のお召し物はシルクで出来た柔らかな布を胸元と腰に巻きつけただけのものにございました。そこから覗かせる肌は褐色で、野性味を感じさせるしなやかでいて筋肉質な体躯は少しも無駄がなく、とても魅力的でございました。どこか寂しさ漂うアーモンド型の瞳は明るいグリーンで、ところにより黄み帯びても見えました。そして、姫の発せられるお声は小鳥のさえずりのように可愛らしいものでございました。御髪におきましては銀色に輝いておりました。


本日はこの姫について語らせて頂きましょう。どうぞ、しばしお付き合い下さいませ。





細身でいてかつ無駄のない四肢を投げ出し、姫は脇息に体をもたれさせた。


「どうして外に出ては駄目なのじゃ」


姫は不満そうに目の前の男を見つめた。


「あなた様は一国の姫様であられます。王族が簡単に下々の前にお姿をお見せになってはいけません。王

族の威厳に関わります故」


男は顔だけを外に出し、他全ての肌を白い布で覆っている。姫の不満げな声に苦笑した顔を見せる。


「儂は、どうしても外に出る必要があるのじゃ」


姫の言葉に男は目を細めた。


「何故外に出なければいけないのです」


姫はアーモンド型の目を伏せた。


「儂は…、」


姫は下唇を噛みしめ、瞼をぎゅっと閉じた。力強く握った手が震えている。


「・・・・、儂は、何も知らぬ王にはなりたくないのじゃ。民の暮らしを、民の心を、知りたいのじゃ……。民の心を知るにはこの城から足を踏み出す必要がある、と・・・、思う」


姫は哀しげに瞳を揺らし、体を起こした。


「民の心を知らずしてどうして民を、一国を治めることができよう。何も知らぬことほど最大の罪はないと、儂はそう思おておる」


男はやさしく微笑むと姫の手にそっと触れた。


「姫様、姫様のお心は存分に民にも伝わっておいでで御座います。だからこそ民はあなた様を支持なさるのです。民はあなた様のお優しい心に生きる活力を頂いているのです」


姫は目の前で跪き己の手を優しく握る男の手を見つめた。己より大きな黄みの肌は温かく、姫の心を癒やす。


「どんなに貧しくとも、どんなに辛くともあなた様の笑顔が、生きる勇気をお与えになるのです。あなた様がどんな者にも見下すことなく、平等に笑顔を見せるからこそ、町は、どんな時も笑顔で溢れているのです」


「儂はみなの力になれているのだろうか…。儂は民に支えられて生きている。食べる物も、服も、儂はみなによって生かされている。何一つ自分ではできない。儂は、儂はみなの負担になっているのではないか…?」


姫はその美しい声を震わせた。


「姫様、民はあなた様のためならば喜んで命を預けるでしょう」


男の言葉に姫は悲観に顔を歪ませ、男の手にすがりついた。


「い、いらぬ!!儂のために民が命を棄てるならば、儂はこんな身分など……っ!」


男は姫の夜空の星のように輝く髪を優しく撫でた。


「ええ、分かっております。あなた様は民を棄てることは決して致しません。分かっているのです。民はみなあなた様のそのお優しい御心を理解しておられるのです。だからあなた様を王にと選んだのです」


姫は眉尻を下げ男を見上げた。


「儂は、儂は…、みなの望む王にとなれるであろうか」

「勿論に御座います。あなた様は既に立派な王に御座います」


姫は泣きそうな顔で微笑んだ。


「來、お前はずっと儂のそばにいてくれるか?儂が道を踏み誤った時は叱ってくれるか?」


男は手を胸に当て深く礼をした。


「死する時まで私の命はあなた様の御側にいると誓いましょう」

「來……」

姫は嬉しそうに笑った。


「よしっ!!來、城下に行くぞ!!」


「なりません」

「來の頑固頭」

姫はむぅっと頬を膨らませた。男は毅然とした態度を保ち、あくまで外出を許さないと口にする。


「頑固で結構」

「民に嫌われるぞ」

姫はニヤリと笑った。


「ええ、結構です。あなた様さえ私を必要として下さるならば私は全人類を敵に回してもかまいません」


首を傾けて笑う男に姫は顔を真っ赤にし、ぷいと横に背けた。


「わ、儂も嫌いになるぞ!?」


首筋まで真っ赤に染めて早口で述べる姫に男はクスリと笑った。


「それは困りましたね。ならば、」


男は己の頭を覆う布を勢いよく剥がし、ばさりと投げた。


「一民として参りましょうか。我々は今この瞬間からただの民に御座いますれば、此処にいるのは場違い

でありましょう」


男はにっこりと笑い体を覆う厚い布も投げ捨てた。随分と身軽になった男の格好を見て姫は手を打ち、立ち上がった。


「來、大好きじゃ!!」

「有り難きお言葉に御座います」




こうして姫様と來様は民の姿となって街へと繰り出したので御座います。民に触れ、民の暮らしに触れ、民から笑顔を貰った姫様はたいそう満足して城に戻られたのでした。


それからと言うもの街では度々、娘と青年が仲睦ましく寄り添う姿が見られたそうに御座います。その姿を見た民は穏やかに笑い、国の平和を喜ぶのでありました。


これにてこのお話は終わりに御座いますれば、ご静聴のほどほんに感謝いたしまする。


エジプシャンマウは、筋肉が発達しており、運動能力が高い。目はアーモンド型で、少し上がり目。忠実で好奇心旺盛。


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