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怨嗟の楔  作者: 棘イワシ
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第一幕 邂逅

   ーある雪の降る夜の事である。

    


     「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」



 一人の少女が夜中の街を駆けている。その少女は、何かから逃れる様に走っていた。

…一振りの身の丈に合わない大太刀を抱えながら。

 





 「…コイツァひでェや。」

 


 時を同じくして、別の現場には、上半身と下半身を真っ二つに両断された死体が幾つも転がっていた。

 岡っ引き「一体…コイツは…」

 その凄惨さに岡っ引き達は言葉を失った。その内の一人は、この辺りでも高名な幕府の大役人であった。しかし、無惨にも死体と変わり果てていた。周囲には護衛であろう者の死体もあり、諸共斬り捨られたであろう様は正に惨劇で、目をすぐにでも背けたくなるものだった。現場には、何人もの岡っ引きと、あの新選組までもが入り乱れていた。その中から1人、新選組の者が名乗り出た。

 ???「…新選組の永倉と言う者だ。此度の事件、また例の人斬りの仕業か?」

 新選組二番隊組長を務める男、永倉新八ながくらしんぱちが近くの岡っ引きに尋ねる。

 岡っ引き「えぇ…この有様、件の人斬りの仕業で違い無ぇでしょう。」

 永倉新八「…これで、四件目か。それでも奴は尻尾を見せないのか…」

 岡っ引き「全く…これと言った証拠も痕跡も見当たらず、こりゃぁ…本当に人間の仕業なのでしょうかねぇ、本当に世間の言う通り、あやかしの類の仕業と思えて来るもんですぜ。」

 永倉新八「馬鹿を言え、これほどこっぴどくやられちゃ此方も示しがつかぬ、何としてでも奴を捕らえて世の混乱を鎮めなければならんのだ…!」


 こうして、また一夜が過ぎたある日の朝市でのこと、そこでは古今東西の珍しい物品や訳ありの格安の食材等を取り合つかっていた。その一角の露店に商人と交渉をする男がいた。

 商人「旦那ぁアンタはついてるねぇ!コイツは今朝収穫された良い大根だよ!しかもほら、立派なもんだろ〜?」

 男「あぁ、コイツは良いものだ。ところで、コイツは幾らだい?」

 男は商人にそう聞いた。その男は顔つきは凛々しく、髪は後ろに一つに結んでおり、衣服は下は灰がかった色をしているが、上は黒い。そして腰に刀を携えていた。

 商人「気になるかい?なんと一本につきたったの十九文!!お安いでしょう!?」

 男「本当かい?そりゃ安いな。それじゃぁ二本頂くよ。」

 商人「まいどありぃ!!」

 こうしたやり取りを行っていると、ふと商人がこう切り出して来た。

 商人「…旦那、アンタは知ってるかい?最近巷を騒がしている辻斬りをよ。」

 男「あぁ…何でも、上等な身分の御奉行さんを狙った犯行らしいが、それがどうした?」

 商人「どうしたもこうしたも、あんなおっかねぇ奴がまだ野放しにされてるとなると不安で夜もまともに寝れねぇよ!」

 男「そりゃあな。でも、最近じゃぁあの新選組まで本格的に動き出してきたらしいじゃないか。こりゃ捕まんのも時間の問題だな。」

 商人「それなら良いが、新選組の連中でも捕まえられるか分かったもんじゃねぇ。事件現場にゃ一切の証拠は疎か、痕跡も一つも残らず消えて行ったんだ。…本当に"あやかし騒ぎ"っつても差し支えねぇんじゃねぇか?」

 男「…そうかもしれんな。」

 商人「…いけねぇいけねぇ!こんな縁起でもねぇ話はもう無しだ!他に何か用入りも物はあるかい?」

 男「…それもそうだな。それじゃぁ…」


    ……ドカッ!!!


 男「…おっ?」

 少女「あっ…御免なさい…!!」

 ふと、刀を持った見知らぬ少女と男がぶつかった。そして男を一瞥し謝罪をするとすぐに走り去って行った。

 男「なんだ?あの嬢ちゃんは…あんなモノを携えて…」

 男には懸念が残った。あんな年端もいかない少女が身の丈に合わない大太刀を持つはずが無い事に。

 商人「…旦那?大丈夫ですかい?」

 男「あぁ…」

 そう気に留めていると、ふと、奥の家屋の屋根に気配を感じた。そこには謎の白装束の集団が屋根を駆けていた。数はおおよそ十数名、しかも、先程の少女と同じ方向へと向かっているようだった。

 …男の脳裏に予感がよぎった、もしかしたら先程の少女は奴等に追われているのでは?と思った。だが…その理由は?あれ程の集団に追われる故は?一体どんな咎を持って?…或いは奴等にとって利用価値がある何かがあるかもしれない。

 男「…すまない、これで失礼する。」

 商人「おっ、そうかい?それじゃあソイツだけ…って居ない!?旦那ぁ!??代金を…あっ…」

 そう言い残し、男は代金を置いていつの間に何処かへと消えていってしまった。

 



 少女「…ハァ…ハァ……ッハァ……」

 

 暫くが経って、雨が降りしきる夕暮れに少女はある廃屋で雨宿りをしていた。そこはかつては立派な館であっただろうしっかりとした造りをした廃屋であった。

 少女「…此処まで来れば、あの人達もすぐは見つけられない筈…」

 男「…確かにこれ程の山奥なら普通はすぐは見つからぬものだ。」

 少女「…!? あなたは!?」

 いきなりの声掛けに少女が慌てふためく。改めてその姿を見ると、その少女は赤い瞳をしていて、右片方は潰されたのか閉じたままで、身なりはえんじ色の着物を身に纏い、髪はボサボサで、見窄らしく、足元の裾はボロボロに擦り切れている。そして何より…一番気掛かりだった両手で握り締めている黒い鞘の大太刀も健在だった。

 男「まぁ落ち着け、俺は怪しいものじゃぁない…っつても信じる莫迦は中々いないよな。」

 少女「貴方…あの時の………何の用?謝罪をしてと言うならするけど…」

 少女は男を突き放そうとする。

 男「いやな、アンタに少し気掛かりな事があったのでね、少々お話を…とでもね?」

 しかし、男も引かなかった。

 少女「…どういう事?」

 その言葉の後に男は周りを見て、

 男「…アンタ、一体何に追われてる?一体何の理由で追われてる?あの後見たんだ、アンタを追い掛けているような集団をな。」

 なんと単刀直入に問い掛けた。

 少女「ッ…!……駄目…ソレを言ったら、貴方も消される…」

 男「…成る程な、既に何人か消されたのか。良いから言ってみろ。…アンタ、何者だ?そして奴らは何なんだ?」

 少女「………分かった、教える。でも、後悔しないでね、私は…」

 そう言葉を告げようとすると…

 ???「…ようやく見つけたぞ。全く、手間を掛けさせるな。」

 言葉を遮るかのように何者かが告げた。声の方向を向くと、例の装束集団が現れた。その集団は白い袴に、顔は瞳を模したような陣が描かれた布で隠されており、左手には錫杖のような物を持っている。

 少女「ッ!」

 装束「こんなところまで逃げるとは、大した胆力だ。だが貴様の遊びに付き合っている暇は無いのだよ。さぁ、観念して我々の下に戻れ。」

 少女「…嫌だ、貴方達は、この国を、この世界の平和を脅かそうとしている…そんなことは、させない…!絶対にさせない!!」

 装束「…聞き分けの無い小娘だ。もうよい、そのような態度なら実力行使をしてでも連れ戻す、もとより、貴様に自由など…あってはならない権利なのだ。恨むなら我々ではなく、貴様自身を恨むのだな。」

 そう言って装束集団が少女に迫る。

 男「…聞き捨てならないなァ、アンタら年端もいかない嬢ちゃんに何をさせようってんだ?」

 しかし、装束集団の前に男が割って入った。

 装束「何だ貴様は、邪魔をするな、除け。」

 男「この嬢ちゃんにどんな事情があるかは知らねェが、アンタらみてェな訳の分からない集団にコイツをどうにかする道理は無ェだろうが。」

 装束「邪魔をするなら貴様は排除する。」

 そう言って装束集団は錫杖に仕込まれた刀を引き抜いた。

 男「…聞き分け無ェのはどっちだ?イロモノ宗教団体一行様がよォ…もういい、ならてめェらあの嬢ちゃんの、俺の敵だ。」

 そう言って男が腰の刀に手を掛けた。


…刹那、装束の一人が真っ二つに切られた。


 男「…ならば諸共去ね、下衆共。」


 一瞬の出来事であった。刀に手を掛けた直後に装束の一人は一切反応出来ずに上半身と下半身を両断された。

 装束「なっ…!?何ぃ!!?」

 装束「一体…何が起きたぁ!!?」

 その事実に装束集団は激しく動揺し、困惑した。しかし、少女だけはその有様に目を見開いていた。

 装束「ひっ、怯むなぁ!奴を殺せぇ!!」

 一人の装束の掛け声と共に装束が一斉に襲い掛かって来た。しかし…


 男「…声を荒げるな、耳が腐るだろうが。」


 一瞬にして男が間合いを詰め、一太刀で装束達を斬り捨てた。辺りには装束の阿鼻叫喚と、血飛沫で満たされていた。そうして装束集団を斬り殺していくうちに、残った装束は最早あと2人となった。

 装束「この…化け物め…!!」

 装束「何なんだ貴様は…!一体何者だと言うのだぁ!!?」

 装束のその言葉に男が返す。

 男「…俺の事を知らねェのか?なら冥土の土産に教えてやる。…俺の名は 嵐川あらかわ 秀善ひでよし 巷で噂の"人斬り"と呼ばれている男だ、憶えておけ。」

 装束「まさか…貴様が、あの事件の発端か…!」

 少女「…事件?事件って、何の事?」

 装束「…クソッ!だがこのままみすみす見放すわけにはいかぬ!…こうなれば、最終手段だ!!」

 装束「まっ…待て!!それをすれば、あの少女共々全員死ぬぞ!!」

 装束「このまま何もせず死にたいのか!!せめて奴だけでも殺して組織に悪影響を無くせば…!!」

 装束「それだけは止せ!被害が大き過ぎ…」

 装束の一人が言葉を発している途中、片方の装束の仲間割れによって首を切られた。

 装束「かっ…!?貴様…何…を……!!」

 装束「…これで良いだろ?お前はもう関係ない、先に彼の世で待っていろ。」

 装束「…お…の……れ…………」

 その言葉を最期に装束は事切れた。

 装束「…これだけは止したかったが、致し方ない。恨むなら我々ではなくその男を恨むのだな。」

 少女「…何をするつもりなの?」

 装束「…ーーーーーーーーーー」

 装束が何かの経を唱え、懐から小さな箱を取り出した。すると、その小さな箱がカタカタと音を出して震え出した。それと同時にとてつもない冷気が嵐川の背中を伝った。

 嵐川(コイツは何だ…人の気配じゃない、一体何をしでかそうってんだ…!?)


 装束「…顕現!!狂骸・衆骨しゅうこつ!!」

 

 名を呼ぶと手に持った小さな箱が浮上し、装束の真上で爆ぜ、辺りには破片と土煙が立ち昇っていた。

 装束「これで貴様等も、この周囲の人間も纏めて終わりだ、これでおさらばだ、せいぜい足掻くと良い…"権現者よ"」    …ゴシャ!!!!

 装束がそう言い放つと、巨大な右手の骸が装束を潰した。そしてその潰した装束と、周りの装束の死体を身に纏いその姿を現した。その姿は悍ましく、

下半身は存在せず、頭部と見られる場所に装束達の頭が無数に生え散らばり、目は全て明後日の方向を向いていた。腕部は無数の腕とあしで造られ、左腕は装束の仕込み錫杖で造られた手があった。その姿に嵐川は身の毛がよだった。

 嵐川「…なんだこの化け物は…!!今俺が見てんのは本当に現実か…!?」

 衆骨「「………………イ…」」

 嵐川「…あ?」

 衆骨「「……………ナイ…」」

 嵐川「…何だと?」

 衆骨「「………タラナイ…」」

 嵐川「てめェ…喋れんのか?」

 衆骨「「タラナイ…タラナイ…タラナイ…」」

 そう呟くと、衆骨は荒川の方を見て、

 衆骨「「…ツヨイ……カラダ………ヨコセエエェェェェェェ!!!」」

 と、言い放ち襲い掛かって来た。

 嵐川(来やがったか…!)

 いつの間にか上半身だけで目の前までやって来て、鋭利であろう左手を振り上げて来た。しかし、

 

 嵐川「…遅ェんだよ!!!」


 その左腕を真っ二つに両断し、一瞬で後頭部に回り込み首を斬った。嵐川は奴の死を確信し、刀を鞘に仕舞おうとする、だが…

 嵐川「……は…!?」

 刀を見ると先程まで普通だった刃が錆びていて、ボロボロと朽ちた。

 しかも、目の前の首を切り落とした筈の化け物が右手で嵐川を掴み、投げられ、廃屋の壁を突き破り外の林木に激突した。

 嵐川「かっ…は………クッソ…!!!」(何で…アイツ…生きてやがる…首を切り落としてんだぞ…!!しかも…刀が一瞬で錆びるなんて、有り得んのかよ……!!)

 そうこうしてる内にあの化け物が外に出て来た。しかも、先程斬った箇所が完全に再生し、何も無かったかのように此方に向かって来る。だが、刀を失った嵐川が、素手で戦おうものなら自分の手が壊れるかもしれない、最早打つ手無しか…などと考えていると、

 少女「…貴方!これを使って!!!」

 と、先程の少女が持っていた大太刀を草陰から嵐川に投げ渡した。

 嵐川「うおっ!?」

 少女「その刀なら、あれを殺せる!だから…貴方に渡す!そして……必ず勝って!!」

 嵐川「…何だかよく分からねェが、あんなん言われちゃァ示しつかねェな……やってやるよ。」

 そして嵐川はその大太刀に手を掛け、構えた。そして、感じた。この刀は普通の刀じゃないと。集中し、抜刀する。その刀の刃は、今までに見たことのない奇妙な波紋をしており、刃渡りは凡そ四尺といった大きさだった。

 嵐川「…上等だ!」

 そう言い放ち、化け物の方を向き、大太刀を背中に乗せ構える。

 衆骨「カラダ…!ニク…!ミツケタァァァァァァァァァ!!!!」

 化け物も嵐川を見つけると興奮したように襲い掛かって来た。  

    ー刹那、化け物の背後に荒川が立つ。

 衆骨「…アァ???」


 嵐川「 一 太 刀   朝 露  (ひとたち あさづゆ)」 …カチン。


 刀を仕舞うと同時に、化け物の身体はバラバラに刻まれ、崩れ落ちる。その身体は、もう戻ることも、動くことも無くなり、あの巨大な骨も消えていた。

 嵐川「…今度はちゃんと死んだよな?」

 嵐川が確認していると、あの少女が話しかけてきた。

 少女「…貴方、とても強いんだね。」

 嵐川「そりゃどうも。こちとらよく新選組の連中ともよく殺りあってるんでね。」

 少女「貴方なら、話しても良いかも…」

 嵐川「何をだ?アンタの事情か?」

 嵐川が少々茶化すと、

 少女「…お願い、私も一緒に連れて行って。そしてあの連中を、止めてほしい。それと……私の探してる人を一緒に探して。」

 神妙な顔で少女が話した。その提案に嵐川は面くらい、

 嵐川「…ソイツだけは止めとけ。俺と居ることは世間から追われる事になるぞ。」

 と、断りを入れた。

 少女「それでも構わない。だから、私を連れて行って。」

 嵐川「…覚悟、出来てんのか?」

 少女「覚悟の上だよ。」

 嵐川「…………分ぁったよ、ついて来い。だが、これからは今までとは違う生活になると思え。」

 少女「…ありがとう。恩に着るよ。」

 嵐川「…所でアンタ名前は何だ?まだ聞いて無いよな?」

 少女「あぁ、そうだね。私の名前は、紗苗、陸堂ろくどう 紗苗さなえ。これからよろしくね、用心棒さん。」

 こうして、"人斬り"と"権現者"と呼ばれた少女の旅は始まった。しかし、この先に起こる様々な出来事や、遭遇する怪異、そして…この少女の正体、それを二人は、まだ知る由もない。


                   〜続く〜

 はじめまして、トゲイワシと申します。初投稿ですが、気軽に読んで下さると幸いです。

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