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双子魔法師、家を買う  作者: こむぎそば
第一章 新しい暮らし
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第8話 出張魔法店!

 翌日の昼過ぎに、エリアはカモメのくちばし亭を訪ねた。昼の営業が終わったらしく、ニニが準備中の札を下げているところだった。


「ニニちゃん、こんにちは!」

「エリアお姉ちゃん! 元気になったの?」

「うん! あたしもエルノーも元気だよ!」


 ほっとした表情を見せたニニだったが、すぐに困った顔をする。


「お姉ちゃんごめんね。お店終わったとこなの」

「あ、今日はご飯食べに来たわけじゃないんだ! お母さんいる?」

「いるよ! おかあさーん! エリアお姉ちゃんが来たよ!」


 厨房へ走っていくニニについて中に入る。これから昼ご飯にするところだったようで、おかずが山盛りになった皿を運んでいた。


「ネレイさん、こんにちは。お鍋返しにきました!」


 鍋になみなみと入っていたスープは、今日の昼までに完食した。朝にはすっかり水分を吸ってドロドロになっていたが、それはそれで美味しかった。

 

「昨日はありがとう。凄く美味しかった! エルノーもすっかり元気になったよ! 今日はまだお留守番してるけど」

「あら、わざわざ来たのかい? 元気になったんならよかったよ! ……それにしても随分大荷物だね?」


 そうなのだ。工具一式とインクに、小型の保冷箱も持ってきた。鍋を返すのも目的の一つではあるが、本題はこちらである。


「お礼に出張魔法店しに来ました!」


 *


「本当にタダで見てもらっていいのか?」


 ガルシア――一家のお父さんが心配そうに尋ねてくる。本来であれば見るだけでも五千、破損の具合によっては数万イェールかかってもおかしくない。


「もちろん! あたしたちホントに感謝してるの。このくらいはさせて! 気になるなら『お客さん第一号特別割引き』ってことで!」


 昼食を食べている間に直しておくから、と一家を隣の部屋へ追い出す。子どもたちは作業を見たがったが、魔石を扱うため危険もあるし、回路を見られるのもあまり好ましくない。そのあたりを察して親たちが連れ出してくれたので助かった。


 

「さーてと、やりますかー!」


 保冷樽はなかなかの大物だ。複雑なものではないが、気合を入れる。

 まずは持参した保冷箱に中身を移す。昼の営業が終わったところなので、小型の保冷箱でも全て収まった。

 気になるのは温度のばらつきである。上の方はほとんど冷えていないのに、底のあたりは凍りつくくらい冷たい。凍っても良いものを下に、それほど冷やさなくても良いものを上に入れて工夫して使っていたようだが、魔導回路のどこかが壊れているのは間違いない。


 中を覗き込んでみると、樽の底、びっしりとついた霜の隙間から鉄板が見えた。魔導回路はここだろう。

 手袋をはめて樽を横倒しにする。エリアの胸ほどまである大きな樽なので、それだけで重労働だ。特別製の手袋が無ければ無理だったかもしれない。

 体を突っ込んでノミで霜を削り、鉄板のビスを外す。更に魔力を注ぎ込んで鉄板を無理やり引き剥がす。樽の中は氷点下だが額には汗がにじんだ。


 ようやく中身とご対面である。ひとまず魔石の接続を外し、冷気の噴出を止める。このまま放っておけば残った霜もそのうち解けるだろう。魔石は交換したばかりだと言っていたとおり、まだ十分魔力が残っていた。

 魔導回路を取り外し、明るい場所で眺める。


「なにこれ」


 そこには今まで見たことがないような不思議な回路が刻まれていた。一見らくがきのようだが、よく見るとなかなか個性的な字で『温度低下』『拡散』『保持』『乾燥』の文言が組み込まれているのが見て取れた。それらがランダムに配置され、間を繋ぐラインがうねうねと、縦横無尽に回路上を走り回っているのだ。理路整然と無駄なくコンパクトに組み上げられたエリアの回路とは真逆である。

 その回路の一部が潰れていた。『拡散』に係る部分のようで、冷気が底に溜まってしまっていたのはそれが原因だろう。魔力はまだかろうじて流れているが、補修しなければ潰れはどんどん広がってしまう。


「うう……変な回路……頭痛くなってきた……」


 そもそも他人の回路というものは読み辛いものであるのに、この回路ときたらとびきり厄介なのだ。隣町の魔法師が嫌がる理由が分かってしまった。


 少しずつ魔力を流し込みながらルートを辿る。線の太さや間隔がまちまちで、どこがどう繋がっているのか訳が分からなくなってくる。

 特製のインクで潰れた部分を迂回するようにラインを引いていく。隙間を縫うように細く、二本。潰れたということはその部分の魔力の負荷が高い証拠であるため、偏りをならすように線を増やし、繋いでいく。


 他にも偏りがあった場所に手を加え、全体を確認してようやく一息ついた。


「こんなことなら新しく作り直した方が楽だったかも……」


 所要時間も消費魔力も修理のほうが少ないはずなのだが、いかんせん精神的疲労が大きい。

 しばらくしゃがみ込んでいたが、いつまでもそうしているわけにはいかないと気力を振り絞って立ち上がる。回路と魔石を戻し、解けた霜でビシャビシャになった内部を拭き、全体重をかけて樽を立て、一家の待つ部屋へ向かった。


 *


「お待たせしましたー」

「なおったなおった!? 見たい!」


 とっくに昼食は食べ終わっていたようで、そわそわと待っていた一家に報告をする。


「ちょっと回路が潰れてたとこあったから直したよ。魔石はまだしばらく持つから大丈夫!」

「おお、全体がちゃんと冷えている」


 すごいすごいと褒められて、頑張った甲斐があったと嬉しくなる。だがどうしても一つ気になることがあるのだ。


「ところでこれ、どこで買ったの?」

「アルゴじいさんのとこだよ」

「ああ……噂の……」


 長らくこの町で唯一の魔法師だった、偏屈で秘密主義の、あの噂の。


 これから修理の依頼を受ける度にあの回路と戦うことになるのか、と肩を落とすエリアだった。

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