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双子魔法師、家を買う  作者: こむぎそば
第一章 新しい暮らし
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第7話 体調不良とスープ

「ごめんエリア、また迷惑かけて……」

「気にしないで。ここ何日かずっと動きっぱなしだったもんね。きっと休んだらすぐ元気になるよ」


 ベッドに横たわるエルノーはいつにも増して弱々しい。エリアは昨日買ってきたカラフルな布を窓枠に鋲で留めた。カーテン代わりだ。

 残った乾燥野菜でスープを作る。もっとまともな物を食べさせないといけないが、昨日買い忘れてしまったので仕方がない。まだ朝だが市場はきっと開いているだろう。すぐに出掛ける支度をする。


「食べるもの買ってくるから、ちゃんと寝ててね。すぐ帰ってくるから。そこまで酷くはなさそうだけど、悪化しそうなら薬飲んで」

「うん……」


 ベッドの横に木箱を置き、作ったスープと水、魔法薬を乗せる。魔法薬は効果が強いため常用するべきではないのだが、エルノーにはこれしか効かないので仕方がない。

 魔導車に乗り、市場へと向かう。そう大荷物にはならないはずなので荷台はつけていない。エリアの心境を映すように、空はどんよりと曇っていた。


 エルノーの不調は今に始まったことではない。むしろ数ヶ月前と比べればかなり改善したと言える。

 不調の原因はわかっている。疲れと心労(ストレス)だ。知らない人と話すのがあまり得意ではなく、昨日のように色々な場所に行くと酷く疲れてしまうのだ。

 それをわかっていながら責任者を押し付けた。そうした方がスムーズにいくのは確かだが、負担をかけているのは間違いない。

 

 エリアも色々と努力はしてきた。”お姉ちゃん”になろうとしたこともあるのだ。だが上手くはいかなかった。どうしても軽く見られる。ナメられてしまう。他人に信用され、頼られるのはいつだってエルノーの方なのだ。


 寝込む度にエルノーは申し訳なさそうな顔をするけれど、エリアは別に煩わしいなどとは思っていない。ずっと()に守られてきたのだから、()としてできる限りのことをするのだ。



 まだ朝と呼べる時間帯だが、市場は買い物客で賑わっていた。飲食店の仕入れや、仕事に行く前に自宅用の食材を買いに来ているのだ。

 ひとまず野菜を眺める。大抵の野菜は切って煮ればどうにかなる。料理の苦手なエリアは、葉物を中心にできるかぎり調理の楽そうな野菜を次々買っていった。

 果物もいい。皮さえ剥けば概ね食べられる。水気が多く甘みのある果物は、熱のある時にも食べやすいだろう。

 問題は魚だ。血や肉の元になるものなので出来れば食べさせたいのだが、どう処理したらいいのかわからないのだ。

 昨日カモメのくちばし亭で食べたものを思い浮かべる。酢漬けは色々な食材が入っていて難しそうだったが、キイロシマシマダイの蒸し焼きはかなりシンプルに見えた。多分、内臓を取って塩をふって蒸している、と思うのだが、そもそも内臓はどうやって取り出すのだろうか。蒸すというのもどうやるのかわからない。水をどこかに入れるということはわかるのだが。魚の種類だって何でもいいわけではないだろう。


「あれ、メイガスさまじゃん。なにしてんの?」


 わからないことが多すぎて道の真ん中でまごまごしていたところ、聞き覚えのある子どもの声が聞こえてきた。カモメのくちばし亭の弟、カロンだ。姉のニニと母親のネレイもいる。後ろにいる男性は父親だろうか。引いている荷車には魚や野菜が沢山載せられている。一家で店の食材の買い出しに来ていたようだ。


「お姉ちゃんひとり? お兄ちゃんはお留守番?」

「あ、えっと……ちょっと具合悪いみたいで、家で寝てるの」

「えー!? にいちゃんカゼひいたのか!? たいへんじゃん!」


 相変わらず元気な子だ。風邪ではないのだが、説明に困る。


「エリアちゃん、あんたも随分顔色悪いよ。大丈夫かい?」


 ネレイの手が頬に触れる。とても温かい。そんなに酷い顔をしていただろうかと思ったが、そういえば慌てて出てきたために鏡を見ていなかったことを思い出した。


「一昨日引っ越してきたばかりなんだろう? 台所は使えるのかい? 困ってることはないかい?」


 優しく尋ねられてつい、ろくに料理ができない、魚を触ったことがないと溢してしまう。そんなことを言っても困らせてしまうことはわかっているのに。

 しっかりしなくてはと思い直していると、カモメのくちばし一家が何やら相談し始めた。


「カロン、あんた家の場所知ってるんだったね?」

「おう! 丘の上のでっけー家!」

「あんた、どういうのがいいと思う?」

「そうだな、いつものアレでいいんじゃないか? 魔法師様、食べられないものはあるか?」

「お野菜と魚と貝と豆と芋と麦のスープね! お父さんのスープはとっても美味しいし元気になるのよ!」


 混乱している間に何かの話が進んでいく。


「魔導車で来たんだろう? 一人で帰れるかい? 早く帰ってお茶でも飲んであたたまりな。あとでエルノーくんにも食べられそうなもの作って持って行くからね!」


 市場のすみに停めていた魔導車に押し込まれ、促されるままに家に帰ってきてしまった。

 エルノーが穏やかに寝息を立てているのを確認してホッと息を吐く。思った以上に動揺していたらしい。そんなに心配しなくても大丈夫だとわかっているのに、血を吐いて倒れていた時の姿が頭を掠めるのだ。

 ネレイに言われたように、温かい茶を淹れる。体が温まるにつれて、頭は逆に冷えていく。冷静になると、市場で情けない姿を晒したことがじわじわと恥ずかしくなってきた。『町の頼れる魔法師様』になりたかったのに早速失敗した、とエリアは頭を抱えた。


 現実逃避に昨日買ったランプ用の魔導回路を刻んでいると、外から「メイガスさまー! きたよー!」という元気な声が聞こえてきた。

 慌てて外へ出ると、馬に二人乗りしたネレイとカロンが待っていた。歩いてくるには少々距離があるため、わざわざ馬を出してきたらしい。

 前に乗っていたカロンが抱えていた鍋を渡してくれる。これが市場で言っていた、何だかやたらと名前が長いスープであるらしい。更にネレイが背負ったカゴから魚の酢漬けやパンや果物、風邪薬まで次々と出してきた。二人を心配してわざわざ持ってきてくれたのだ。


「酢漬けは保冷庫に入れておけば三日くらいは持つからね! それはあるんだろう?」


 優しさに目頭が熱くなるのをこらえて礼を言う。お代を払おうとすると、「今度また食べにきてくれればいいから」と断られてしまった。そういうわけにはいかないと思ったのだが、エリアが何か言う前にさっさとカロンを引っ張って帰っていった。


「ねえ、今カロンとネレイさんの声がしなかった?」


 いつの間にか起きていたらしいエルノーが顔をのぞかせる。朝と比べるとかなり顔色が良くなっている。


「えへへ、ご飯作ってもらっちゃった。ついでに色々届けてもらっちゃった」

「え? 俺が寝てる間に何してたの?」

「せっかく起きたんだし、ご飯食べよう!食べながら話すよ」


 まだ温かいスープを器によそう。細かく刻まれた具材が柔らかく煮込まれていて少しとろみがある。味付けは薄めだが魚や香草の香りが良く、麦のプチプチとした食感もあって飽きない。


「おいしいね。何だか懐かしい感じがする。昔風邪ひいたときにおばあちゃんが作ってくれたスープを思い出すよ。多分入ってるものは全然違うと思うけど」

「あそこは海が無いもんね。でもわかるよ。反対の国なのに不思議」

「なんて料理なの?」

「何だったかな。『魚とネギとキャベツとカブと豆と麦となんかとなんかのスープ』だったっけ」

「……なんかすごい」

 

 家庭料理ってそういうものなのかも、と笑い合う。


「明日お礼に行こうかな」

「エルノーはまだ外出禁止! あたしが行ってくるから!」


 かなり元気になったんだけどな、と肩を落とすエルノーを励ましながら、何をお礼するか考える。確か保冷樽の調子が悪いと言っていたから、それを直しに行くのがいいだろう。

 

 貰ったポリンの実が想像以上に酸っぱくて、二人でしばらくけらけら笑い合った。

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