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双子魔法師、家を買う  作者: こむぎそば
第一章 新しい暮らし
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第6話 レストの町の職人たち

「どれも綺麗で可愛いですが、この羊が特に好きですね。これはあなたが?」

「ええ、そうです。魔法師様に気に入っていただけて嬉しいですよ」


 ミレアスと名乗った青年は、やはり最近王都から戻ってきたという店主の息子であった。どこから来たのかと問われて一瞬迷うが、設定通り王都からと答える。王都といっても広いため、ごまかせるだろう。


「へえ、珍しいですね、こんな田舎に。王都にいた方が儲かるのでは?」

「そうかもしれませんが、都会は疲れるので……」

「ああ……それはわかりますよ。実は僕もそうなんです。建前としては親父が心配で戻ってきたと言ってるんですけどね」


 苦笑しながらエリアと盛り上がっている父親を眺めた。紙に何か書き込みながらあれこれと言い合っている。


「彼女は妹さんですか? 親父の相手をしてくれてありがとうごさいます。親父、昔から魔道具に興味があったみたいなんですよ。でもアルゴじいさん――前にいた魔道具師ですが、その人はお願いしても関わらせてくれなかったんだそうで。自分の方がもっと面白いものを作れるのにってずっと言ってたんですよ」

「魔法師は秘密主義な者が多いですからね」

「そうみたいですね。王都の魔法師様にもお願いしてみたことがあるんですが、断られました」


 それどころか怒られました、と肩をすくめる。どうやら魔法師に対してあまり良い思い出は無いようだ。


「だから親父の夢を叶えてくれてありがとうございます。あんなに生き生きしている姿を見るのは初めてですよ」

「いえ、こちらとしても手伝っていただけて大変助かります。エリア――妹も楽しそうなので」


 実を言うと、二人ならば魔法を使えば何でも出来る。水だって出せるのだから、イメージさえしっかりしていれば金属を加工することも、金属を生み出すことだってやろうと思えば出来てしまうのだ。ただ、魔法を使うにはとても労力がかかる。もともと高い魔道具が更に高額になり、貴族ぐらいしか買えなくなってしまうだろう。

 それに、二人には経験が足りない。人々が必要としているものは何なのか、どのような構造にすれば使いやすいのか、日常の使用に耐えられるような強度にするにはどうすれば良いのか、そういった知識が乏しいのだ。だから町の人の声を聞き、生活に必要な物を日々作り続けている職人の協力が必要不可欠だ。

 それに何より、自分には無い視点を持った者のアイデアを聞くのは楽しい。二人だけで引きこもっていては決して得られない経験である。


「魔法師様は気難しいものだと思っていたんですけど、エルノー君は話しやすい方で良かった。ところで昔からずっと気になってたことがあるんですが、ガラスの魔道具っていうのは作れないものなんですか?」

「全部ガラスで出来ているものは見たことがないですね。魔導回路を刻むのには強度が足りないかもしれないです。それに回路は隠すものという認識もあって。でも魔石ランプくらいだったら単純な回路だし、見えちゃってもいいのかな」

「じゃあ回路の部分だけもっと強度のあるもの、たとえば水晶なんかを使えば」

「全部透明なものが作れるかも――」


 

 ひとしきり盛り上がったあと、時間を見て慌ててお暇をすることにした。今日中に材木屋にも行っておきたかったのだ。結局家で使うためのランプを三つと大きさ違いの鍋を二つ、ロロネル羊のペーパーウエイトと魔法薬を入れる瓶を数個買った。


「エリアちゃん、さっきのやつは作っておくから近いうちにまた来いよ!」

「うん! おじさんのおもしろランプをお店の商品第一号にしようね!」

「エルノー君、追加の瓶は三日後くらいには出来ているはずなので、時間がある時に来てください」

「わかりました。他にもお願いしたいものがあるので、今度詳しい話をさせてください」


 まだまだ話し足りないが、また来ると約束して店を出る。

 目的の材木屋はそれほど遠くはなかった。広い敷地に丸太が積まれ、平屋の大きな建物が建っている。中から魔導ノコギリ(チェーンソー)のギュイーンという音が聞こえてきた。建材の加工から家具の組み立てまで一通りこなすというこの『レスト木材店』は、レストの町で一番職人の数が多く、品揃えも良いのだそうだ。

 

 店舗の部分に入り、カウンターで舟を漕いでいた店番へとそっと声を掛ける。飛び起きた店番は、二人を見るなり「親方! 例の魔法師様が来なすったぜ!」と叫びながら加工場へと駆けていった。


 また町長が言いふらしたのだろうかと首をかしげていると、逞しい筋肉で立派なあごひげをたくわえた男性が顔を出した。


「おお、あんたらがあの家を買ったっていう魔法師様か! ベッドの使い心地はどうだ?」


 なんと家に運び込まれていたベッドはこちらの商品だったらしい。しかも家の掃除をしてくれたのは親方の奥さんと娘、それに孫たちだという。


「凄く綺麗になっててびっくりしました! ベッドも素敵だったし! 他の家具も見たいです!」

「あの家、家具類は何にもなかったからなぁ。ゆっくり見てってくれ。オーダーも受け付けてるぞ」

「店で使うようなものはオーダーになるでしょうか。カウンターと陳列棚、それに大きな作業台が欲しいのですが」


 店を始めるのはゆっくり町に慣れてからと思っていたのだが、ああもせっつかれてしまってはのんびりしてはいられまい。オーダーとなると時間もかかるため、早めに注文しておく必要がある。


「ふむ、サイズはどんなもんだ? 小さいのだったら在庫があるんだが」

「棚はこのくらいのが二つあればいいかな? 作業台はここからここくらいのやつ!」


 今日はひとまず食事用のテーブルだけ買うつもりだったので、ちゃんと測ってきてはいない。測るものを持っていないというのもあるが。


「あんたらの家に行ってちゃんと測ったほうが良さそうだな。今から行くか?」

「今から!? どうする、エルノー」

「せっかくだし来てもらおうか。早い方がいいだろうし」

「あ、その前にテーブルとイス買います!」


 慌てて陳列されている商品を眺める。幸いシンプルなクルミの木の二人掛けテーブルがあった。ミニキッチンはそれほど広くないため、このサイズでちょうどいいだろう。

 店の馬車で運んでくれるというので、二人も魔導車を取りに行く。親方は家の場所を知っているため先に向かっている。あまり待たせるわけにはいかないと、少しスピードを出し帰路を急いだ。


 家に着くと既に親方と弟子たちが数人来ていたので、さっそく中へ通す。そんなに大人数だと思っていなかったので困惑する。魔法師の家とはどんなものか興味があるらしく、ただ見学しに来たらしい。

 二階には少々見られたくないものを出しっぱなしにしていたため、テーブルとイスはその辺に置いてもらった。二人で運べば持てる重さなので問題ない。持てない重さだとしてもどうにかする手段はあるが。


 玄関で配置の相談をする。

「ここに食堂にあるおっきなテーブルを置こうと思ってて。棚はここでカウンターはここかな?」

「大きなテーブルだぁ? まずそれを見せてくんな」


 先に大きさを測らなきゃ話になんねぇと言われ、食堂へとぞろぞろ向かう。


「ふーむ、立派なテーブルだな。店に置いても格好はつくだろうな」

「作業台もこのくらいの大きさにしてほしいんですけど」

「この大きさを一枚板でか。オーレント樫の木だったら在庫があるが、それでいいか? 硬い木だから作業台にはちょうどいいと思うぞ」


 木の種類には詳しくないため、親方のおすすめに従うことにする。ついでにテーブルを玄関まで運んでくれることになった。筋骨隆々の男が五人もいるため、とても頼もしい。


 玄関に移動し、丁寧に寸法を測っていく。置きたいものの大きさから、棚板の間隔などを細かく決めていく。


「そういえばエルノー、魔法薬はどこに置くの?」


 まだ先のことになるため、すっかり忘れていた。それほど数が出るわけではないし、表から見える場所には置いておきたくないものでもある。


「それならカウンターの裏に棚をつけるか? 少しならそのくらいで足りるんじゃねえか?」


 親方からの提案を受けて、先ほどガラス工房で買ってきた瓶に合わせて棚を作り付けてもらえるようにお願いした。


 細かい仕様を決め、見積もりを出してもらう。親方はスムーズに作業をすすめると、颯爽と去っていった。時刻はもう夕刻、仕事納めの時間である。


 テーブルや買ってきたものたちを二階へと運び、カモメのくちばし亭で作ってもらったパンを食べる。オーブンであたためて、お茶も入れた。十分満足な食事である。


「食材買い忘れちゃったね」

「また明日買いに行けばいいよ。それにしても今日は疲れたな」

「色んなとこ行ったもんねぇ。でも急ぎの用事は終わらせたし、明日からはちょっとゆっくりできるんじゃない?」

「そうだといいな。早めに畑もどうにかしたいんだよ」


 足りないものはまだまだあるが、それらは今度でもいいだろう。朝も早かったため、早々に休むことにする。



 その日の夜中、エルノーは熱を出した。

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