第6話 サーシャの王子様
エリアとサーシャはアクセサリーが沢山飾られた棚をまじまじと見つめた。
「サーシャってネックレスとかイヤリングとか普段つける?」
「あまりつけないわ。気合を入れておしゃれする時くらいよ」
「だよねー。あんまり見たことないと思った」
そもそもこの田舎町では、気合を入れておしゃれするイベントがほとんどない。それならばもっと普段使いしやすいものを選んだ方がいいだろう。
「それならブローチがいいわ。冬になったらストール留めにもなるし、結構便利なのよ」
「いいね! あたしも杖飾りじゃなくブローチ選んでもらおっかなー! ローブに合いそうなやつお願い!」
そうして悩むこと数十分、エリアはサーシャの普段着に似合うように、シルバーの羽飾りに揺れるチャームとビーズがついたものを選んだ。揺れる度にカットされたビーズがキラキラと輝く、可愛らしいものだ。
「かわいい! ありがとうエリア!」
早速襟元につけてニコニコしているサーシャに、エリアはほっと胸をなで下ろした。
「私からはこれよ!」
サーシャが選んでくれたのは真鍮の蔦と葉に青いビーズの実がついた上品なものだった。ローブの胸元につけると紺の生地に良く映え、元々上品なおばあちゃんのローブがますます洗練された気がした。
「うわー凄く良い! ありがとう!」
「エリアって何となく植物が似合う気がするのよねぇ。緑の実もいいと思うけど、青だって似合うと思うわ!」
自分のためにあれこれ考えてくれたことが何より嬉しくて、エリアは上機嫌にくるっと回った。
*
「そういえばエリア、ソルフェンさんどうだった? かっこよかったでしょ」
他のテントでタペストリーを見ていると、サーシャは唐突にそう切り出した。
「ソルフェンさん……?」
「さっきお話してたじゃない! 金髪に青い目の人よ! 王子様みたいな人!」
「ああ、お父さんね!」
そういえば名前を聞いていなかったなと思い出す。確かに整った顔をしていて背が高く、それほど太くはないものの筋肉はしっかりありそうな体つきだった。なるほど、サーシャはああいうのが好みなのかと、エリアは納得して頷いた。
「知り合いなの?」
「うーん、顔見知りって程度かしら。向こうは私のこと覚えてないかもしれないわね。あの人、ゴルドーさんの息子さんなのよ。ゴルドーさんは知ってるわよね?」
「もちろん! 商工会長さんだよね!」
エリアは店を始めるにあたって何度も世話になっている商工会長の姿を思い浮かべた。確かに金髪に青い目をしており、デスクワークが多いせいかやや腹が出て髪も薄いが、言われてみればどことなく似ている気がする。
「じゃあ商工会長さんも若い頃はかっこよかったのかな」
「え……ということはソルフェンさんも歳をとったらゴルドーさんみたいになるってこと……? いえ、そんなはずはないわ! きっとお母様に似たのよソルフェンさんは!」
赤くなったり青くなったり百面相をしていたサーシャだったが、突然冷静になったように遠い目をした。
「でもまあ、そんなこと気にしてもしょうがないわよね。子どもがいるなら奥様もいるんでしょうし」
「ヨルンくんね。かわいい子だったよ!」
「ヨルン……?」
サーシャはその名を聞くと怪訝そうな顔をした。
「ヨルンってソルフェンさんの弟の名前だけど。息子もヨルンなの?」
「そう言ってたよ?」
よくよく思い返してみれば親子だとはっきり聞いたわけではない。それにヨルンは十九歳だと言っていなかっただろうか。まさか本当に大人だったんじゃ、と思考の海に沈んでいると、サーシャはとんでもない秘密を聞いてしまったかのように頬に手をあて、オロオロしはじめた。
「まさか、ソルフェンさんが息子に弟の名前をつけるような変な人だったなんて……!」
「あ、そういう発想になるんだ」
確かにそちらの方が無理のない考え方だ。魔法に染まりすぎると普通を忘れてしまう。悪い癖だと反省したエリアだったのだが――。
「もしかして、ヨルンの身に何かあって愛する弟の面影を息子に感じて名前をつけたとか……? でもそんなことがあったならおじいちゃんが知らないはずないわよね。私がショックを受けると思って教えてくれなかったのかしら……!」
「待って待ってサーシャ! 勝手に不穏な妄想するのはよくないって!」
「そうよね! ごめんなさい、つい……!」
「今度お店に来るって言ってたから、その時に聞いてみるよ」
自分とは別方向に妄想力逞しいサーシャに、エリアは思わず苦笑した。
事実はどうあれ、ソルフェンが何か言い淀んでいたのは間違いない。情報は集めておくに越したことはないだろう。
「ソルフェンさんと弟のこと教えてよ。この町の人なんでしょ?」
「それがよく知らないのよ。ほら、ゴルドーさんちってお金持ちじゃない。二人とも十歳から王都の学校に行ったのよ。特にソルフェンさんは私が赤ちゃんの時に王都の親戚の家に引っ越したって聞いたわ」
ということは八歳くらい年上ということだろうか。サーシャは十八歳なので、二十六歳ぐらいだろう。
「弟は?」
「一つ年上だったと思うから、生きてたら多分十九歳ね。小さい頃は結構一緒に遊んだわね。活発な子だったと思うわ」
「十九ね……」
「何年か前にちょっと帰ってきたことがあったのよ。二人で学者だか冒険者だか傭兵だか、何かになったって話を聞いた気がするわ」
「あれ、その話子どもたちに聞いた気がする! 騎士だって言ってたような……?」
すっかり忘れていたが、以前カロンたちが遊びに来た時にそんな話をしていたことを思い出す。ゴルドーさんちの兄弟が帰ってくると言っていたのではなかったか。
結局肝心なことはわからなかったが、何か面倒なことが起こる予感をひしひしと感じるエリアであった。
子どもたちが何か言ってたのは一章の27話です。




