第5話 どんぐりランプ
「これ、ヨルンくんにどうかな」
エリアはポケットから手にすっぽりと収まる大きさの木の実のような物体を取り出した。半透明の球体にどんぐりのような金属の笠がついている。上部の突起を押すと、ぼんやりと優しい光を放った。
「ぴかぴかどんぐり!」
目を輝かせて興味津々なヨルンに手渡すと、小さな両手でしっかりと握りしめた。
「あったかーい!」
「お嬢さん、これは?」
「懐中魔導ランプ、かな。たいして光らないけど一応ランプなの。出力の低いちっちゃい魔石だからずっと持ってても大丈夫。そこからちょっとずつ魔力が漏れるから、ヨルンくんにちょうどいいんじゃないかと思って」
このランプは、エミルたちヤンチャ少年四人のために作ったものだ。迷惑をかけた侘びにと森で拾ったクズ魔石を差し出してきた少年たち。その気持ちを汲んで受け取りはしたが、何か別の形で返してあげようと考えたのだ。
クズ魔石は入る魔力が少ないうえ出力も低く、使う用途が限られる。そのため、光る以外の機能を持たない小さなランプを作ることにした。最初はガラスで作ったが、魔力が弱すぎてあまり光らなかった。そのためホタルホオズキの実をくりぬいて乾燥させたものを使うことにしたのだ。ホタルホオズキは魔力に反応して発光する性質を持つ。夜に群生地に行くとあたり一面がぼんやりとした光に包まれ、幻想的な光景を見ることができる。小さいため普通のランプに使うことはないが、今回の用途には最適だった。それに魔導回路を刻んだ金属の笠を取り付けて完成だ。
少年たちはとても喜んでくれた。紐を通してベルトに結び、お守りにするとまで言ってくれたのだった。光量が少ないためあまり役には立たないだろうと思っていたのだが、早朝の薄暗い時間帯に漁の準備をする時や、暗い倉庫で作業をする時など、案外便利であるらしい。それを見た町民たちから普通に売ってほしいと要望があったため作ったのだが……。小さくてもあくまで魔道具。それなりの値段になってしまったためあまり売れず、店には在庫が沢山ある状態だ。
ヨルンはよほど気に行ったのか、どんぐりランプを手にどんぐりの歌を歌いだした。
「これを買い取らせてもらえないか?」
「これ、試作品なの。とりあえず貸してあげるから、気に入ったら今度店来るときに買ってって! 店にはもっと色んな色のやつあるから好きなの選べるよ! 一万イェールしちゃうんだけど……」
「そのくらいだったら大丈夫だ。予備と合わせていくつか買わせてもらうよ」
「そんなに買ってくれるなら魔力の再充填サービスしちゃおうかな! ずっと点けてたら一か月くらいで魔力切れちゃうと思うけど、持ってきてくれたらまた入れるからね!」
青年は丁寧に礼を言うと、ようやくエルノーから離れたヨルンを抱いて広場へと戻って行った。
*
残ったラップサンドを食べきる頃にはすっかり昼時を過ぎていた。そろそろ杖飾りが出来た頃合いだろうとテントへ向かう。すると、白いフリルが沢山ついた服を着た、見慣れた少女が目に入った。
「サーシャ!」
「あら、エリアにエルノーくん! お話は終わったの?」
熱心にアクセサリーを見ていたサーシャは、大粒のビーズがジャラジャラとついた舞台用のネックレスを店員に返しながら振り向いた。
「見てたの? 全然気付かなかった!」
「ちょっと見かけたのよ。仕事のお話だったら邪魔しちゃいけないと思って声はかけなかったの」
気を使ってくれたらしい。普段は押しが強いのに、そういうところはわきまえてくれるのが彼女の良いところだ。
「ねえエリア、お仕事終わったなら一緒にお買い物しない?」
「え、どうしよう」
エリアはちらっとエルノーの顔を見た。サーシャと遊びたい気持ちが顔にありありと出ているエリアに、思わずエルノーは苦笑した。
「いいよ。行ってきたら? 家の飾りなんかは俺と見るよりサーシャと選んだ方がいいだろうし」
「あら、エルノーくんも一緒に行きましょうよ」
「遠慮しておくよ。一人でゆっくり見たいものもあるから」
飾り物に特にこだわりのないエルノーは、意見を求められても「いいんじゃない?」としか返せない自信がある。魔法素材は一緒に探したかったが、どうせそんなものに用があるのはエルノーとエリアくらいなものだろう。市はあと数日開かれているそうなので、また来ればいいのだ。それよりも早い者勝ちのオシャレ用品を先に見た方がいい。
「ごめんねエルノーくん、次の鐘が鳴るまでちょっとエリアを借りるわ!」
「うん。じゃあさっきの塀のところで待ち合わせしようか」
「あ、その前に杖飾り受け取らなきゃ!」
少し離れてニコニコと様子を眺めていた店員に声をかけ、先ほど頼んでいたものを受け取る。金具と紐が付け足されており、杖の穴に通すとぴったりの長さになった。
「サーシャ、どう?」
「可愛いし使いやすそうね! でももうちょっとキラキラにしてもよかったんじゃないかしら。あーあ、選ぶときに私に声かけてくれたらよかったのに!」
「サーシャに選ばせたらとんでもないことになりそうだからこれでいいの!」
「ひどーい! その杖だって私がデザインしたんだから、いい感じになるわよ! もう一つ作らない? 私が可愛いものを選んであげるわ!」
「えー、そう? じゃああたしもサーシャに何か選ぶから交換しようよ!」
「楽しそう! そういうの憧れだったのよ! 歳の近い子、あんまりオシャレに興味がある子がいなかったのよね!」
さっそくきゃあきゃあと賑やかにはしゃぎはじめた女子二人に巻き込まれないようにと、エルノーはそそくさと退散した。




