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双子魔法師、家を買う  作者: こむぎそば
第二章 暁の探究者
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第2話 行商人の情報

 一方その頃、レプティス魔法店には客が訪れていた。雑貨屋の息子で行商人のロータスだ。


「やあエルノー坊ちゃん、ご機嫌麗しゅう。以前会った時より顔色が良くなったんじゃないか?」

「こんにちはロータスさん。そうでしょうか。最近ご飯をよく食べているのでちょっと太ったかもしれませんね」

 

 実際レストの町に定住してからエルノーの体調はかなり良くなっていた。基本的には家にこもって魔法薬を作ったり畑の世話をし、時々町に出て人と話す。人付き合いがあまり得意ではないエルノーは、このくらいの距離感がちょうど良かった。最近は料理を真面目にするようになったこともあり、色々なものを食べているというのも健康につながっているのかもしれない。


「元気なのは何よりだ。今日持ってきたものもちゃんと買ってもらわなきゃならないからね」


 そう言うとロータスは木箱から麻袋と紙に包まれた物体を取り出した。


「まずこれが頼まれていた雷鳴の実と水晶蜂の蜜蝋だよ。遅くなってすまなかったね」

「助かります。特に蜜蝋はこの間結構使ってしまったので、在庫が心許なかったんですよ。もっと手に入りそうなら仕入れてきてほしいです」

 

 水晶蜂の蜜蝋は止血傷薬などの塗り薬に使うため、案外消費が速い。最初は診療所にのみ納品していたが、最近は町兵団からも依頼が来るようになったのだ。一般向けにも販売してほしいという声もあるため、そろそろ薬効を落としたものを店で売ろうかと考えているところである。


「承知した。次はあまり間を空けないように持ってくるよ」


 メモ用紙に何やら書き付けたロータスは一つ咳払いをし、勿体ぶった表情で「実は持ってきたのはこれだけじゃないんだよ」と囁いた。


「見るかい?」

「もちろんですよ。あまり焦らさないでください」


 ロータスの芝居がかった仕草に苦笑しなから促すと、「ごめんごめん」と言いながら木箱から厚手の布で厳重に包まれた物体を取り出した。布を外していくと、中には赤い何かと液体が入った瓶が鎮座していた。


「これ、火竜の鱗じゃないですか!」

「おお、さすがエルノー坊っちゃん。ご存知だったか」

「なかなか有用な素材ですからね。ここまで運んでくるのは大変だったのでは?」


 火竜の鱗と呼ばれてはいるが、本当のドラゴンの鱗ではない。多肉植物の一種で、鱗のような形状の赤い葉を持つことから一般的にそのような名で呼ばれている。ふっくらとした葉には油がたっぷりと含まれており、乾燥すると勝手に発火してしまうという特性を持つ。この油は魔力を多く含んでおり、魔法薬の材料となるのだ。そのような性質から水に漬けて持ち運ぶ必要があるのだが、定期的に水換えをしなくてはならない。火事を起こす危険もあり、なかなか手間のかかる素材なのである。


「そうなんだよ。買ってもらえないとこっちも商売あがったりでね。どうかな、君のお眼鏡にかなうだろうか」

「少し見させてもらいますね」


 エルノーは瓶を持ち上げてためつすがめつ眺めた。肉厚の葉は滑らかで、まるで夕焼けのような赤色をしている。目立った傷はなく、断面もきれいに処理されている。水と瓶越しでもしっかりと魔素を感じられた。


「十分な品質ですよ。買わせていただきますね」

「ああ、助かった。これのために慌てて帰ってきたんだよ!」


 ロータスは心底ほっとしたようにソファーに沈んだ。

 

「実はね、もうすぐ商売敵がこの町に来そうなのさ。もし僕が持ってきたものと同じ素材をそいつらが持っていたら、君はそっちを買ってしまうかもしれないからね!」

「あはは、ロータスさんとは良い関係でいたいですから、持ってきてくれたものはちゃんと買いますけどね」

「情で余計なものまで買わせるのは僕の心情に反するのさ。必要なものを必要な時に買ってくれれば十分だよ」


 そう言ってロータスはウインクをした。気障ったらしい仕草だが、嫌味に感じさせないのはロータスの才能だろう。商売に誠実であるからこそかもしれない。


「せっかくだ、君の耳にも入れておこうかな。商売敵のことなんだけどね、カルデシェル商会の隊商(キャラバン)がこの町に向かっているそうなんだ」


 カルデシェル商会は大陸西部にある商業国家、バルハディア都市同盟を本拠地に据える商会なのだという。いくつかの隊が世界各地を巡っており、レストの町にもおおよそ三年に一度のペースで訪れているのだそうだ。

 バルハディア都市同盟は他国と交易が盛んな商業国であるがゆえに出入国が比較的容易で、エルノーたちがこの国、オーレント王国まで旅をする際、通り道に選んだ国だ。表通りはきらびやかで活気があるが、裏通りは金を失ったものが地面にうずくまっているような、混沌とした雰囲気だったことを思い出す。ほとんど通り過ぎただけで観光は全くしていないためあまり詳しいことは知らないが、きっとそのカルデシェル商会は表に店を構える大きな商会なのだろう。


「なかなかお目にかかれない他国の製品や魔法素材も持ってきている可能性があるから、見てみると面白いと思うよ」

「そんなことを言っていいんですか? 商売敵なんでしょう?」

「さっきは大口を叩いたが、規模がまるで違うからね。僕は自分の仕入れたものが売れればそれで満足なのさ」

 

 それからしばらく雑談を続けていたところ、牧場に遊びに行っていたエリアが帰ってきた。


「ただいまー。って、ロータスさん来てたんだ! いらっしゃい!」

「やあ、エリア嬢。お邪魔しているよ」

「オムレツお土産に持って帰ってきたんだけど、ロータスさんも食べる? いっぱいあるよ」

「おや、いいのかい? ではいただこうかな」


 エリアは香ばしく良いにおいのするカゴを掲げた。四人では食べきれず、残ったものを包んでもらったのだ。


「あ、そういえば隊商が来たんだって! さっき通り過ぎて行ったよ! エルノー、明日見に行こうよ!」

「なんだって⁉ もう来たのか!」


 エリアの話に、ロータスは慌てて立ち上がった。


「すまないが偵察に行かねばならないので、これで失礼するよ! まだしばらく町にいる予定だから、用があれば母の店まで来てくれたまえ!」


 そう言い残すとロータスは颯爽と去って行った。


「ロータスさん、どうしたの?」

「商人同士、色々あるみたいだよ。――お腹空いたな。食べていい?」

「うん、モリイモ入ってるから結構ボリュームあるよ」

「エリアはいらないの?」

「あたしは食べてきちゃった。お茶だけ飲もうかな」


 野菜たっぷりのオーブンオムレツは、外はさっくり、中はふんわりとしており、少しついた焦げ目がとても香ばしい。調味料は塩だけだが、ヤギチーズの酸味やハーブの香りが加わり、素朴だが癖になる味だった。

 オムレツを食べながらロータスから聞いたことを話す。


「へえ、バルハディアの隊商かぁ。面白いものがあるといいね!」

「うん。魔法素材もあるかもって」

「のんびりしてたら良いもの売れちゃうかも! 早起きしようよ!」

「随分やる気だなぁ。いいけど」

 

 魔法素材も気になるが、エリアは家の装飾品や服飾雑貨なども楽しみだった。この家は殺風景すぎるのだ。期待を膨らませながら二人は残った仕事を片づけるのだった。

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