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双子魔法師、家を買う  作者: こむぎそば
第一章 新しい暮らし
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第37話 真実を前に

 幸か不幸か自宅の井戸の底に出てしまった二人は、何とか魔法を駆使し、苦労して外へと這い出た。特に大量の本を入れていた箱が井戸の穴を通らず、余計な魔法を使う羽目になってしまった。

 風呂と洗濯を終えた二人は今、サロンのラグの上にゴロゴロと寝転びながら、持って帰ってきた日記や雑記帳を手分けして読み漁っていた。


「エルノー、何かわかった?」

「うーん、興味深くはあるんだけど、今知りたいことはソレじゃないんだよなぁ、って感じ」

「最初は読めないし、最後は抜けてるからねぇ。鹿さんが食べちゃった本の内容も気になるし」

「多分あれが書いてあったんだろうなっていう予想はあるけど」


 小屋から持ち出すのを阻止されてしまった本が一冊だけあった。きっと二人には見られたくないことが書いてあったのだろう。


「あたしもこれかなーって思ってるのはあるよ! せーので言わない?」

「いいよ。せーの」


「「精霊魔法!」」


 精霊魔法は魔法師アルゴの出身地、アル=カナーフに伝わる魔法である。その詳細は謎に包まれており、二人も『そういうものがある』ということしか知らない。

 そして精霊といえば思い出すのが、あの精霊めいた鹿。


「結局、いくら考えたところで推測の域を出ないんだよなぁ」

「鹿さんが教えてくれたら手っ取り早いんだけどねー」

「あ、そういえば鹿に穴塞いだって報告してないな」

「別に平気じゃない? 多分わかってるでしょ。うちの場所知ってるんだから、用があるなら来るだろうし」

「それもそうか」


 手詰まりになってしまいラグの上で大の字になっていると、来訪者を告げる金属管がカランカランと音を立てた。


 *


「こんにちは。お店は閉めてらっしゃったんですね。大活躍されたとは聞いておりますが、まだ体調が優れないのでしょうか」


「ウォルトさんだー! いらっしゃい! 中へどうぞー!」

「ちょうどお話したいことがあったんですよ。お茶を淹れますね。ゆっくりしていってください」

「え、なん、なんですか? 怖いのですが……」


 訪ねてきたのは馴染みの生真面目な顔の役人だった。いわれのない歓待を受けて怯えるウォルトを奥に引っ張っていく。

 応接室に通されお茶を一口飲んだウォルトは落ち着きを取り戻したようで、軽く咳払いをし「では早速ですが」と切り出した。


「まず、町の子どもたちを助けてくださったことにお礼を申し上げます。大体の話は伺っております。町ではその話題で持ちきりですよ」

「うわ、聞きたいような聞きたくないような……」


 渋い顔をする二人に構わずウォルトは話を続ける。


「協力金でゴネられたそうですね。意外でした。――ああ、いえ、私も安すぎるとは思いますよ勿論。ただ、あなた方は金銭にはあまり頓着していないのかと思っておりましたので」


 火事の一件から、どうやらお人よしだと思われていたらしい。あの時は自ら足を突っ込んだ手前無償で働いたが、今回は町兵から正式に依頼を受けているため状況が違う。最も依頼されなくても知ってしまったからには行っただろうが。

 

「今回だけなら別にいいんだけどね」

「何度も気軽にアテにされては俺たちも困るので」

「『魔法師』を使うってこと、よく考えてもらわなきゃ」


 二人はにこりと微笑んだ。

 

「ふふ、町長さんに説得してこいって言われたの?」


 ちょっと面倒そうな町長だったなぁ、と以前店に来た時のことをエリアは思い出した。あの時もウォルトは交渉係を押し付けられていた。すっかり双子の担当になってしまったらしい。いかにも役人然としていて融通の利かなそうな生真面目な男だ。交渉に慣れていない一般町民であれば理詰めで滔々と話されてそのままサインをしてしまいそうな迫力があるため、ここに送り込まれてきたのだろう。だが残念ながら三人は結構打ち解けてしまっていた。冗談を言える程度には。

 

「そうですね。泣き落としでもなんでもしてこい、と」

「ウォルトさんが泣いたらびっくりして譲歩しちゃうかもなー」

「御冗談を。――単刀直入にお聞きします。いくらお支払すれば納得していただけますか?」


 ウォルトはいささか緊張した面持ちで切り出した。


「欲しいのはお金じゃないんだよ」


 田舎町からむしり取るほど非道ではない。それよりももっと欲しいのは。

 

「魔法師アルゴが遺したもの。それを譲っていただきたいんです」


 あれほど筆まめだったアルゴのことだ。きっと封印に失敗した後のこともどこかに記録しているに違いない。もしかしたら処分してしまっている可能性もあるが……。なんにせよ確認しないと気が済まない。それにもしかしたらアル=カナーフの情報もあるかもしれないのだ。今必要な知識ではないかもしれないが、知る機会があるのであれば何でも知りたいと思ってしまうのは、塔で育った魔法師の(さが)なのかもしれない。


「まだ家と店残ってるって聞いてるよ。鍵が掛かってて開けられないって。あたしたちが開ける」

「家や魔石などは町のものにしたらいいと思います。俺たちが欲しいのは書物の類ですね」


 魔法の鍵はそうそう壊せるものではない。何年も経てば徐々に魔力が弱まってくるため、それを待って回収する予定だったのだろうが、二人ならば今すぐ開けることは可能だろう。土地や魔石など、一般的な価値のあるものは町が持っていけばいい。そう悪い話ではないはずだ。

 

「なぜそんなものを? 素人の考えではありますが、魔法の腕はあなた方のほうが上であると思います。ためになりそうな物があるとは思えませんが」


「ねえ、ウォルトさん。前にあたしたちにお願いをしたよね? 森を調べてほしいって」

「誰にも話していないことがあるんですよ。でもあなたには話してもいいと思っています。他言無用にはなりますが、聞きますか?」


 ウォルトは二人から見つめられて一瞬怯んだが、すぐに覚悟を決めたようにうなずいた。


「聞きます」

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