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双子魔法師、家を買う  作者: こむぎそば
第一章 新しい暮らし
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第35話 地の底へ

 洞窟の奥は下へと続いているようだった。


「いるかな」

「いるだろうね」

「じゃあ俺が防御しようか」

「そうしよ。箱も持てる?」

「いいよ。攻撃は任せた」


 これだけ暗く瘴気が満ちているのだ。魔物がいないはずがない。戦うのであればどちらかの手は空けておいたほうが都合が良い。


『輝く箱、我らを守る光の泡』

『影無き匣、闇を通さぬ浮遊する光域』


 本を入れていた木箱が明るく輝き、ふわっと浮き上がった。箱を中心にして球状に防御の膜が現れ、エルノーとエリアを包み込む。ただの木箱が発光する様子はどうにもシュールだが、バラバラの魔法をそれぞれ動かすよりもひとまとまりにしてしまった方がコントロールしやすいのだ。

 エリアも一応魔力を乗せたが、その後の維持はエルノーに任せる。細く長く安定して魔力を出し続けるのはエルノーの方が得意だ。


 洞窟に足を踏み入れるとじめじめとした湿気がまとわりついた。湿った地面で滑らないよう気をつけ、なだらかな坂道を下っていく。奥に行くにつれてどんどん空気が冷えていく。

 エリアを先頭にして狭い穴をしばらく進むと、唐突に開けた場所に出た。天井や地面から石灰石のトゲが無数に生えている。鍾乳洞だ。

 大穴(ホール)には瘴気が立ち込め、闇の向こうから無数の目が二人を見つめる。光を強めてみるが、粘着質な音を出しながら何かが這い回るのが聞こえるばかりで、姿を確認することはできなかった。


「気持ちわる……」


 生理的な嫌悪感を感じる音に、思わずこぼした呟きが思いのほか大きな音で反響した。それに反応したのか、闇の奥から何かが飛び出してくる気配がした。


『光の盾!』


 エリアが放った板状の光が襲いかかってきた魔物を押し潰す。天井から伸びる石灰石の()()()がバキバキと折れた。それに巻き込まれて他にも何体か消し飛んだようだが、まだまだ魔物の気配はそこら中に立ち込めていた。


「ここで戦うの良くないかも! 鍾乳石が折れちゃう!」

「大元を絶たないと無限に増えそうだな。さっさと亀裂のところまで行こう」


 襲い掛かってくるヘドロのコウモリのようなものをはじき返しながら走る。地面は濡れて滑りやすく、そのうえそこら中から生えた石筍(せきじゅん)が邪魔で何度も転びそうになる。


「エリア、箱に乗っていこう!」

「うえー、狭いなぁ」

「走るよりいいでしょ! どっちに行けばいいかわかる?」

「えーっと、――あっち!」


 光り輝く箱の縁に腰掛け、高度を上げる。魔力の消耗が大きくなる上かなり集中を要するが、こんなところは早々に抜けた方がいい。先ほどまでの一本道とは異なり鍾乳洞の中はかなり入り組んでいるようで、奥に続いていると思われる穴が無数に開いていた。意識を集中させ、瘴気の流れを感じ取る。鍾乳石にぶつけないように慎重に箱を操り、横穴の一つへと潜り込んだ。

 入口を光の網で塞いでしまう。これで大穴にいたモノたちはしばらく入ってこれないだろう。


「アルゴさん、よくこんなとこまで入ってきたよね」

「その時は魔物はいなかったんだろうけど。それにしたって健脚だよね」


 箱は座るのに適した形状ではないため再び歩いていくことにしたが、ここまでもそれなりの距離を歩いてきたために若干の疲れが出てきていた。老人よりも体力で劣っているかもしれないという事実に肩を落とす。

 横穴にはどこからともなく水が流れ込んできていて、横幅の半分ほどが川になっていた。人ひとり通るのがやっとの狭さのため、縦に並んで慎重に歩く。

 周りの瘴気がどんどん濃くなっていく。いくら光で照らしても闇に遮られ、奥のほうがどうなっているのかわからない。防御結界がなければ呼吸するのも難しいだろう。


 じゃばじゃばと水がどこかへ流れ込む音がする。ふと、目の前に巨大な地底湖が現れた。


「もしかしてゴールかな?」


 左手の壁面に亀裂のようなものがうっすらと見えた。闇に覆われていて全容はわからないが、あれが例の瘴気が噴き出る亀裂だろう。

 亀裂に向けて足を踏み出すと、地鳴りとともに地底湖からゴボゴボという音が響いた。


「その前に門番をどうにかしないといけないみたいだ」


 光る箱を一旦降ろし、結界に強く魔力を込める。地底湖の黒い水を突き破り、巨大な魔物が姿を現した。


『光の盾!』

『風の盾!』


 咆哮をあげて襲い掛かってくる魔物を光の盾ではじき返し、風の盾で撒き散らされた黒い水を押し戻す。

 魔物は巨大なウツボのような見た目をしていた。他の魔物たちと違わず目が体中についていて、体の表面はどろどろとしたヘドロのようだ。

 反撃されるとは思っていなかったのか、ウツボは長い尾を振り回し壁や天井に叩きつけながら暴れまわる。洞窟はミシミシと音を立て、天井から砂や小石がパラパラと降ってきた。


「ちょっとやめてよ! 『光の矢』!」

「生き埋めはごめんだ! 『矢の嵐』!」


 鋭い光の矢をウツボに向かって放つものの、その多くが刺さる前に闇にかき消されてしまう。なおも追撃を放つが、洞窟中を暴れまわるウツボはたびたび地底湖に潜って二人の攻撃を避け、まるでダメージを与えられている気がしない。


「まず捕まえないと駄目だな」

「次に出てくる時ね」


 光の矢を消し、箱の光も最低限まで落とす。暗くなったことに気付いたウツボが地底湖から飛び出してくるタイミングで魔法を放つ。


『闇の粘液!』

『絡みつく瘴気の触腕!』


 地底湖の黒い水がウツボを絡め取る。水から抜け出そうと身をよじるが、長い体にねっとりとまとわりついて離さない。


『瘴気の槍!』

『闇を集めし杭!』


 あたりに漂う瘴気が集まり、漆黒の杭へと形を変える。


「「貫け‼」」


 全ての光を吸い込むような闇そのものの杭は、いまだ水から抜け出せずもがいているウツボをまっすぐに貫いた。

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