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双子魔法師、家を買う  作者: こむぎそば
第一章 新しい暮らし
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第34話 本と鹿と森の奥

 気を取り直して本棚から別の本を抜き取ってみる。ところどころ何冊か中を見てみると、上の方はカナーフ文字が多く、下にいくにつれて徐々に大陸共通語が混ざり始め、中段からはほぼ大陸共通語で書かれていた。


「良かった! この辺は読めるね!」

「最初はこっちの言葉が書けなかったけど、だんだん覚えていったってことかな。それにしてもアル=カナーフからこっちに来るなんてよほどの事情があったんだろうなぁ」


 アル=カナーフは伝わっている資料が極端に少ないことからわかる通り、非常に閉鎖的な島国として知られている。魔法については特に顕著で、魔法師が島の外に出ることなどおそらく許されてはいないだろう。だとしたらアルゴは()()()()ということだろうか。

 ついつい読みふけりそうになるものの、ずっとこの場所にいるわけにはいかない。じっくりと読み込むのは家に帰ってからにしたいが、なにぶん冊数が多い。日記に加えて図形やメモが記された雑記帳と思われるものも多くあり、とても鞄に入る量ではなかった。かといってこの道を何往復もする元気もなく、魔法で入れ物を作り、浮かせて持っていくことにした。移動中ずっと集中していなければならないが、交代で魔法を使えば大して疲れはしないだろう。

 壊れた壁や屋根の木材を拝借し、魔法で箱を生成する。本を詰め込んでいると、不意に手元が少し明るくなった。驚いて振り向くと、鹿がのぞき込んでいた。


「あ、どうも、お邪魔してます……」

「えーっと、これは泥棒じゃなくって、遺品回収っていうか、研究資料というか……。これ、持っていっちゃってもいい、かなぁ?」


 別に鹿の許可を取る必要はないのだが、まるでイタズラが見つかったかのような、どうにもいたたまれない気持ちになってくる。

 エリアが何だか良く分からないまま弁明していると、鹿はエルノーが手に持っていた本をぱくりとくわえ、飲み込んだ。


「え?」


 そうして鹿は唖然としている二人を残し、来た時と同じように音もなく去っていった。


「びっくりした……」

「さっきのは持っていっちゃダメってことだよね……。何の本だったんだろう。中見てないの?」

「見てない。ちょっとくらい見とけばよかったな」


 気にはなるが作業を続ける。あれだけ持っていったということは、他は好きにして構わないということだろう。

 箱に全て詰め終えると、なかなかの重量だった。二人で持っても持ち上げられる気がしない。


「じゃあ軽ーく浮かせますか! 『浮遊』!」


 エリアが杖を構えて魔法を放つと、箱は腰のあたりまでふわりと浮き上がった。


「そこら辺にぶつけないように気をつけてよ。エリアはたまにガサツだからなぁ」

「失礼な。そんなことありませんー」


 軽口を叩きながら外へ出る。すると、立ち去ったと思っていた鹿が二人を待っていた。


「今度はなぁに?」


 少々嫌な予感がしながらも尋ねると、あの夜のように二人を誘導するかのごとく、チラチラと後ろを振り返りながら歩き出した。家とは反対方向の、森の奥へと進んでいく。


「どうする?」

「行くしかないんじゃないか? この間は世話になったんだし」

「まーね。本は置いてく?」

「持っていこう。またここに戻って来れるかわからないし」


 どこまで行くつもりなのかはわからないが、近いといいなと思いながら後を追う。


「鹿さん! お礼を言うのが遅くなっちゃってごめん! あなたのおかげでみんな無事だったよ。ありがと!」


 鹿は振り返りはしなかったが、耳が動いていたのできっと聞いていたことだろう。


 *

 

 鹿の案内でやけに歩きやすくなった森を歩く。三十分ほど進みそろそろ帰りたくなってきた頃、あたりの空気が変わりだした。もともと瘴気が漂う森だったが、奥に行くにつれてどんどん濃くなってきたのだ。


「どこに連れてかれそうになってるかわかったかも」

「俺も多分わかった」


 二人はこれからやらなければならない作業を思い、ため息を吐いた。アルゴの日記に書いてあった、瘴気が吹き出す亀裂。鹿はその亀裂があるという洞窟まで行こうとしているのだ。



 やがて、唐突に目の前に岩壁が現れた。見上げるとなかなかの高さの崖のようだ。崩れたような跡があり、周囲には大きな岩がゴロゴロと転がっている。洞窟の入口はそのすぐそばにあった。崖崩れがきっかけで中に入れるようになったのかもしれない。

 噴き出してくる瘴気のせいで息苦しい。鹿は表情が読めないが、心なしか苦しそうに見えた。光から生まれるという精霊であるのならば、この空気はかなりつらいだろう。


「あなたが言いたいことはわかったよ。瘴気の穴を塞いでくればいいんでしょう?」

「俺たちがどうにかするから、離れてていいよ」


 ここまで来たら乗りかかった船だ。町のため、ひいては二人のためになることでもある。二人は気を引き締めて洞窟へと向き直った。

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