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双子魔法師、家を買う  作者: こむぎそば
第一章 新しい暮らし
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第31話 一夜明けて

 カランカランとチャイムが鳴る音を聞いてエリアは目を覚ました。まだ日が高いようで室内は明るい。臨時休業にしたことを知らずに来た客ならともかく、子どもたちに何かあったのではと慌てて起き上がる。多少のダルさはあるものの、動くのに支障はなさそうだ。

 バルコニーへ向かうと、外からガルシアとネレイ夫妻の声が聞こえてきた。


「エリアちゃん、エルノーくん、いないのかー?」

「中で倒れてるんじゃないだろうね? 心配だよ」

「昨日は元気そうだったんだが。一緒に診療所まで連れてくべきだったか」


 昨日、ということは丸一日寝ていたようだ。腹が空腹を訴えていた。


「おはよぉ〜。生きてるよぉ」


 寝起きのかすれた声で返事をすると、夫婦は驚いた顔でバルコニーを見上げた。



 わざわざ心配して様子を見に来てくれた夫妻に礼を言い、貰ったスープを持って二階のミニキッチンへ上がる。薄い寝間着にボサボサ頭のまま出てしまったことが今更恥ずかしくなってきたが、あの二人なら見なかったことにしてくれるだろうと開き直る。

 まだ起きてこないエルノーの様子を見にいこうとしたところ、部屋からガタガタッと何かが倒れる音がした。


「エルノー! 大丈夫?」


 慌てて部屋へ向かうと、エルノーが床で四つん這いになり震えていた。


「う……エリア……筋肉と関節が痛い……」


 なんということはない、日頃の運動不足が祟り、立ち上がろうとしてベッドから落ちたのだった。

 

「なーんだ、心配して損した」

「筋肉痛だって心配してくれてもいいじゃないか……なんでエリアは元気なんだ……ずるいよ」

「ずるくないよ。エルノーももっと普段から動いた方がいいよ」

「畑仕事だったらいつもやってるのにおかしいな……」


 操り人形のようにぎこちない動きのエルノーを支えながら食卓につく。ガルシアのスープは今日もおいしかった。


 *


「やあ、聞いたよ、大活躍だったらしいね」

「こんにちはオルネシア先生。先生も早朝に起こされて大変だったんじゃないですか?」

「そうなんだが、私は本当にただ診ただけだからなぁ。君たちが全部やってくれたから出番が無かったよ」


 子どもたちの様子が気になり診療所へ向かうと、オルネシアが笑顔で迎えてくれた。ニヤニヤしながら小声でそっと耳打ちをしてくる。


「あの子たちに話を聞いたんだが、治療魔法を使ったんだって? それにとても凄い薬を貰ったとか。誰にも言わないからどんなものを使ったのか教えてくれ」


 そう言われてエルノーとエリアは目を丸くした。そういえば子どもたちに口止めをしていなかった。あまり広めてほしくはない話だが、今さらだろうか。


「黙秘します」

「なんだ、私がこんなに頼んでいるのに駄目なのか。やはり君たちも秘密主義の魔法師なのだなぁ」

「だって先生、聞いたらびっくりして倒れちゃうかもよ?」

「ということはやはりとんでもない薬なんだな。町から貰える金では足りないのではないか?」


 オルネシアは心配そうに二人を見たが、それは端から承知の上だ。そもそも魔法師を動かそうとするだけで普通はかなりの金がかかる。そのうえ薬代まで請求したら破産してしまうだろう。それでも見捨てることはできなかった。それに――。


「ちょっと町と交渉しようと思うんですよ。費用については別にあの子たちに請求する気はありませんし、こっちもまあどうにかなるので大丈夫です」


 交渉次第ではあるが、もっと良いものが手に入る可能性があるのだ。



 病室へ向かうと、一晩入院していたらしいエミルとニルスが帰る支度をしていた。


「こりゃ魔法師じゃねえか! 昨日は本当に世話んなって! ほらおめぇたち、お礼を言え!」

「……」


 こってりと絞られてばつが悪いのか、子どもたちは俯いて黙り込んでいた。


「命の恩人に対して何だその態度は!」

「まぁまぁ。ブロムさん、フェンロさん、ちょっと話があるんで来てくれないか?」


 怒れる父親たちにオルネシアが割って入り、別の部屋へ連れて行く。大人たちがいなくなると、エミルとニルスがおずおずと近づいてきた。


「えっと、魔法師様、あの、助けに来てくれてありがとう……」

「みんなに話聞いたんだけど、魔法で戦ったり薬使ってくれたんだよね? オレたちそんなに大変なことになると思ってなくて……ごめんなさい」


 先ほどまでとはまるで違う素直な態度で頭を下げる子どもたちに、つい笑みがこぼれる。親の前では素直になれない年齢のようだ。エルノーとエリアにも覚えがないわけではない。


「お金、凄くかかるんでしょ? うちあんまりお金なくて……。これ、ちょっとは足しにならないかなって思って」


 そう言って二人は麻袋を差し出してきた。中を見てみるとクズ魔石がじゃらじゃらと入っていた。なかなかに大きなものも混ざっている。


「テオとコリンの分もあるんだ! みんなで相談して、それで」

「お金は――」

 

 いらない、とエルノーが返そうとしたところをエリアが素早く遮る。

 

「わかった。君たちの気持ちに免じてこれを報酬として貰っていくよ。おうちには請求しないから安心して。これに懲りたらもう危ないことしちゃ駄目だよ」

「うん」

 

 病室を出て父親たちに挨拶し、謝礼を丁寧に辞退して診療所を後にする。

 

「エリア」

「あの子たちが自分で決めたんだよ。気持ちの整理をつけるためにも貰っておいた方がいいと思う。あとでこれで何か作ってあげようかな」

「そうだね。ちっちゃいライトはどう? 大した光量は出ないと思うけど」


 魔力を充填したところで家の明かりや持ち歩き用のランタンのようには光らないだろうが、手元を少し照らすくらいはできるだろう。彼らの未来を照らすお守りのようなものが作れたらいいなと思いながら魔導車を走らせた。

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