第30話 夜明けの光
『光の矢! 雨のように降れ!』
エリアの杖から放たれた魔力が五本の光の矢になり、魔物へと向かう。しかし五本程度ではとても雨とはならず、あっさりと避けられてしまった。
共鳴魔法は二人いてはじめて真価を発揮する魔法だ。一人では思ったように威力が上がらず、思わず舌打ちする。ましてエリアは、エルノーたちを覆う光のドームの他にも光の玉を六つ維持しながら戦っているのだ。
人間の気配に引き寄せられたのか、先ほどから周囲に魔物が集まってきている。一体一体はそう強くはないのか、光の玉を警戒して近寄っては来ないが、隙を見せれば一気に群がってくるだろう。光を弱めるわけにはいかない。
魔物の爪を魔力の盾ではじき返し、再び杖に魔力を集中させる。
「もういっかい! 『光の矢!』」
体の奥底にある魔力を絞り出すように放つ。今度は避けられないように、六本の光の矢を多方面に展開する。すると、後ろから良く馴染んだ声が呼応するように響いた。
『針のごとく、細く鋭い光の矢』
魔力が共鳴する。膨れ上がった魔力が無数の針となり、魔物を貫いた。
「エルノー!」
「あっちはどうにかなった。次はこっちだ」
「うん」
目を潰された魔物がのたうち回りながら瘴気を撒き散らしている。早く止めなければ魔物を引き寄せるばかりか、そこから新たな魔物が生まれる可能性もある。
杖に魔力を込める。隣にいる片割れの気配が心強い。よく似た魔力が混ざり合い、境界がわからなくなる。全てが自分の力のような、そんな錯覚。
『光の風!』
『闇を包み込む光の風』
『魔を切り裂く風の刃!』
『邪を霧散させる光の竜巻』
小さな無数の光の粒が渦を描くように広がり、魔物の体を包み込む。そのまま大きく渦巻きながら上昇し、やがて曇った夜空へ霧散した。魔物の姿は既に無く、あれほど撒き散らしていた瘴気も大地を汚していた粘液も、きれいさっぱり消え去っていた。
一次的とはいえ闇が払われたことで、森のどんよりとした空気とは違う、爽やかな風が吹き込んでくる。周りに集まってきていた魔物たちは、逃げたのかはたまた巻き込まれたのかはわからないが、すっかり気配が消えていた。
まだ油断はできないものの、張り詰めていた息をフッと吐き出す。振り返って少年たちを安心させるように笑顔を向ける。
「助けに来たよ! もう大丈夫!」
「みんな心配してる。早く帰ろう」
少年たちはようやく安心したのか、ワッと泣き出した。
「みんな立てそうかな。歩けるならそろそろ出発しよう」
少年たちが落ち着くのを待って、そう声をかける。まだ足が震えているようだが、三人はなんとか歩けそうだ。エミルはまだ意識が戻らないが、フェニックスの灰とドラゴンの心臓を混ぜた強力な薬を飲ませてあるため、じきに目を覚ますだろう。エルノーが背負うと、背中に確かな鼓動と呼吸を感じた。
「みんな! あたしについてきてね!」
エリアは光の玉をそのまま掲げ、木々の間からうっすらと見える魔力発光剤の明かりを頼りにゆっくりと歩きだす。鹿はいつの間にか姿を消しており、道なき道を行くしかない。
少年たちを励ましながらなんとか森の端にたどり着く頃には、空がうっすらと白み始めていた。
「テオ! ニルス!」
「コリン! 無事か!?」
「とうちゃん〜!」
家へ近づくとソワソワと外をうかがっていた父親たちが飛び出してきて、息子たちを抱きしめた。
「エミル! 魔法師様、エミルは」
エミルの父が血だらけのエルノーと背負われたエミルを見て青ざめる。
「この子なら――」
「ん……ううん……おやじ……?」
「エミル!」
父親の声に反応したのか、エミルが目を覚ました。
「エミル! エミルぅ、う、うおーん!」
「え? 親父? なに? 苦しいって!」
目覚めたばかりで状況を把握できていないエミルを父親がぎゅうぎゅうと抱きしめる。
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにした父親たちを見て、エルノーとエリアはようやくほっと息をついた。
「エリアちゃん! エルノー君! 子どもたちを助けてくれてありがとう!」
目を向けると、ガルシアや捜索に加わっていた町民たち、それに町兵たちが晴れやかな顔で駆け寄ってきた。
「大変なことを頼んじまったと心配してたんだが、二人とも無事でよかった! ここからでも光が見えたんだ。あれは二人がやったんだろう? 凄いな!」
大きな手で頭をわしゃわしゃと撫でられて少し照れてしまう。魔法を使って恐れられることはよくあるが、こんなふうに親身に労られることはそうそう無い。
「それにしても血まみれじゃないか。大丈夫なのか?」
「俺たちは大丈夫です。ただ、あの子たちは念のためオルネシア先生に診てもらってください。特にエミルとニルスはしばらく安静にした方がいいですね。治療はしたので心配いらないとは思いますが」
「わかった。すぐに連れて行くよ」
ガルシアが皆に声をかけて帰る支度を始めると、町兵の隊長が申し訳なさそうに「報告のため詰所へ来てもらえないだろうか」と願ってきた。だがそろそろ体力増強薬のリミットが迫っている。
「ごめんなさい。あたしたちもそろそろ限界なんだ。休んでから行くから待ってもらえないかな」
「おお、それはすまない。報酬の話などさせていただきたいので詰所でお待ちしています」
隊長はどことなくぎこちない様子でそそくさと去っていった。どうもこちらには恐れられてしまったようだ。
町へと帰っていく人たちを見送ったあと、交代で風呂に入り血と泥をざっと流す。髪も乾かさないまま二人はベッドへと倒れ込んだ。




