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双子魔法師、家を買う  作者: こむぎそば
第一章 新しい暮らし
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第3話 街へ行こう!

 翌朝、二人はさんさんと射し込む朝日で目を覚ました。カーテンが無いので陽が入り放題なのだ。

 特にエリアが選んだ部屋は、東側に大きな窓があるために大層眩しい。八角形のような形をしておりバルコニーまでついているこの元子ども部屋を気に入って、ちゃっかりと自分の部屋にしたのだがまさかこんな罠があるとは。

 ベッドだけは事前に頼んで搬入しておいてもらったので、寝心地が良かったのは幸いであった。


 二人の寝室は二階にある。昨日は暗くなってしまいほとんど探索できなかった二階だが、大体は何の変哲もない寝室であった。特にこだわりの無いエルノーは、ベッドが運び込まれていた一室をそのまま自分の部屋にした。


* 


「もっと明かり寄せて!」

「このへん?」

「そのまま持ってて!」


 早朝5時から賑やかな声が響く。何と二階にはミニキッチンが備え付けてあった。昨日エリアが自信満々に大丈夫だと言っていたのはこのことだったのだ。

 お茶を淹れるためのもののようで、コンロも蛇口も一つしかなく全体的に狭いが、ろくに料理をしたことがない双子には充分だ。小さめの魔導オーブンもついているし、もっと凝りたくなったら増設すればいい。なんせ二人は魔法師(メイガス)なのだから。


 エリアは流し台の下に仰向けに潜り込み、魔道具の要である部分のふたに手をかけた。魔力を流し込みロックを外す。中にある魔石は一般人が触ると危険であるため、魔法師でないと開けられないようになっているのだ。

 ふたを開けてみると、やはり魔石は外されていた。せめて空の魔石でも残っていれば楽だったのだが。


「小さめの青いやつ、ちょうだい」


 手持ちの魔石から合いそうなものを探す。幸い青魔石は数多くあったため、スムーズに取り付けることができた。

 問題はその横に刻まれた魔導回路である。

 

「うー、消えかけてる。インク取って」

「どのインク?」

「木のやつ」


 金持ちの屋敷なのだからてっきり金属板だと思っていたのだが、開けてみたら木の板だった。加工は容易だが耐久性はあまり高くないため、何度も使用するとこのように薄れてきてしまうのだ。


 ブツブツと文句を言いながら魔力でインクを操り、消えかけている部分へ流し込んでいく。このインクもマギ粉と同じように魔力との親和性が高い、特殊なものだ。


 応急処置は終えたものの、この調子ではそのうちまたダメになってしまうだろう。現状は水しか出せない回路であるし、いずれ金属板で作り直し、お湯も出せるようにしようとエリアは決意した。



 蛇口に続いてコンロも直し、早速朝食の準備をする。黒パンをオーブンで軽く温め、乾燥野菜と干し肉でスープを作る。

 木箱を三つ持ってきて腰掛け、一つはテーブル代わりにした。


「あったかいご飯、おいしい」


 エリアが感動に目を潤ませ、しみじみと呟く。昨夜は結局、暗い中で黒パンをそのままもそもそとかじっただけで終わったのだ。それと比べたらなんと美味しいことか。


「今日は絶対テーブルとイスを買おう」


 ちぎったパンをスープに浸しながら、エルノーは今日買いたいものを思い浮かべた。



 街へ行くために服を着替える。道中では普通の旅人を装い薄汚れてくたびれた服を着ていたが、これからは魔法師(メイガス)として振る舞うのだ。

 

 この国の王都で手に入れた、少し上等な服に袖を通す。落ち着いた色味で品があるものを数着選んできたのだ。

 そして魔法師の代名詞であるローブを羽織る。紺色を基調とし、白い糸で繊細な植物の刺繍が施された美しいローブ。ロロネル羊の毛から作られた上質なロロウールは、滑らかな手触りでとても温かい。


「おそろいってちょっと双子っぽすぎるかな?」

「同門でおそろいになるのは珍しいことじゃないし、平気だと思う。なんならお店の制服ってことにしてもいいし」

 

 このローブは()から持ち出してこれた数少ない私物である。幼い頃から二人の面倒を見てくれていた老女が、15歳のお祝いにと作ってくれたものなのだ。もっともその後すぐに王宮魔法師として召し上げられ、貸与された制服を着て過ごすことになったため、ほんど着られることはなかった。

 

 国を出るときに、貸与されていたものは全て置いてくるか処分してしまった。残ったものはわずかだった。


 魔法師ではない一般人が作ったものだ。制服と違い何の効果もついていないそのローブが、双子にはとても心強く思えた。



 魔導車に乗って街へ向かう。大荷物になる予定のため、荷台もしっかりとつないでいる。


「最初どこ行く? ごはん屋さん?」

「まずは商工会だよ」


 舗装されていない坂道をガタガタと下りながら今日の予定を話す。エリアは一度商工会長と会っているが、エルノーは初めてなのだ。店を開くにあたり確認しておきたいことが色々とあるし、一応責任者となるのだから顔を見せておく必要もあるだろう。


 商工会の建物は街の中心部にほど近い場所にあった。平屋建てでそれほど大きな建物ではない。石造りの外壁にはツタが這っており、古びた印象だ。

 中に入り近くにいた職員へ声をかけると、会議室へ通された。他に客らしき人はいない。そもそもレストは小さな町であるため、それほど商店の数は多くないのだろう。


 

「やあ、よく来てくださいました、魔法師(メイガス)様。エリアさんのお兄様と伺っておりますが」

「はじめまして。エリアの兄、エルノーです。先日は妹がお世話になったそうで。店を開くにあたって色々とご相談させていただきたいこともあり、ご挨拶に参りました」


 ほどなくしてやってきた商工会長のゴルドーはエルノーを見てわずかに驚いた顔をしたが、すぐににこやかな笑顔を浮かべ手を差し出した。

 あまりに不健康な見た目なので化粧か魔法で少し誤魔化そうかとも考えたのだが、結局そのままでいくことにしたのだ。


「こちらの町では魔法師が不足していると伺っておりますが」

「ええ、ええ、そうなのです。エリアさんからお聞きになっているかもしれませんが、以前おった魔道具師の方が亡くなりましてな。今は定期的に別の町の魔法師様をお招きして作業していただいている状況なのです。こちらに住んでいただければ町の者たちも助かります」

「その魔法士様の仕事を奪うことになりませんか?」

「なんとか頼み込んでしぶしぶ来てくださっていたので、むしろ喜ばれるかと。こちらで話は通しておきますのでご心配には及びません」

「それを聞いて安心いたしました。王都ではそういった(いさか)いも多く……少々疲れてしまいまして」


 他国の王都の話だが、嘘は言っていない。どうせこの国の魔法士も似たようなものだろう。

 商工会長はエルノーの風貌と照らし合わせて、同情したようにうなずいた。騙しているようで若干気が引けるが、勝手に察してくれるのは好都合である。

 

「ところでお店はいつ頃始められる予定ですかな?」


 よほど困っているのだろう。前のめりに尋ねてくる商工会長に苦笑しながらも答える。

 

「まだ内装もなにも整っておりませんので……魔道具屋の開店は一月くらい先でしょうか。魔法薬の取り扱いは材料の関係でもっと後になります」

「魔石の交換だけでも早めにどうにかなりませんかね」

「……わかりました。あまり沢山はお受けできませんが、少しずつであれば」


 結局押し負けてしまった。


「ああ、助かります。次に魔法師様が来るのはいつかとせっつかれておりましてな。正式開店までは予約制として、こちらで順番を管理するということでいかがでしょう。あまりご負担にならないように調整しますので」

「お手やわらかにお願いします」


 そこまでやってもらえるのであればむしろ楽かもしれない。随分と気を使われている。仕事はさせたいが逃げられたくはない、そういう意図を感じる。やはり弱そうな見た目のままで来てよかった思うエルノーだった。

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