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双子魔法師、家を買う  作者: こむぎそば
第一章 新しい暮らし
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第28話 深夜の来訪者

 来訪者を知らせる金属管がカランカランと鳴り響く。もう日付が変わろうという時間に普通の客が訪れるはずはない。二人はとっさに杖を手に取り、神経を研ぎ澄ませた。

 ――大勢の人の足音、馬の蹄、馬車の車輪、魔導車の駆動音。人間だ。

 よもや追っ手かと杖を構え身を寄せ合っていると、玄関ドアのノッカーと共に聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「魔法師様ー。こんな時間に悪い! 緊急事態で頼みがあるんだー! 話を聞いてくれないかー!」


 エルノーとエリアは顔を見合わせた。カモメのくちばし亭の主人、ガルシアの声だ。どう見積もっても厄介な話であることは確実だが、世話になっている以上居留守を使うわけにもいくまい。寝間着の上にローブを羽織って玄関へ向かった。

 

 おそるおそる扉を開けると、案の定ガルシアが立っていた。二人が顔を出したことにホッとしたような表情を浮かべる。敷地の外には町兵が数人と、クワやモリを持った屈強な町民たちが遠巻きにこちらをうかがっていた。


「魔法師様! 突然すまん、寝てたか? 実は町の子どもたちがこの時間になっても帰ってこなくてな。森に入ったらしいんだ。魔法師様の魔法でどうにか探せないもんだろうか」

「森に!?」


 ガルシアの話では、いなくなったのは十二歳から十五歳の少年四人。既に働きに出ている年齢で、エリアたちは面識がなかった。そのうちの一人はたまに遊びに来るキールの兄、エミルだそうだ。怖いもの知らずの少年たちは、森の中に大きめのクズ魔石が落ちていることに気づいてしまったらしい。それを採取するためにたびたび森へ行っていたというのだ。確かにここしばらく人の手が入っていない森の奥ならば、拾えることもあるだろう。昼間キールが持ってきたクズ魔石は森で拾ったものだったのだ。

 こんな時間に森に探しに行くというのはあまりにも危険だ。できる限り武装はしてきたようだが、素人が農具で戦えるような相手ではない。それに町兵の数も少ない。土砂崩れの修復に人数を割かれ、すぐ動けるのはこれだけのようだ。しかもレストの町は元々魔物が出なかったところだ。魔物と戦う訓練を受けた者はおらず、皆及び腰だった。


「とにかく、みんな庭に入って! そこは危ないよ!」

「馬も入れてください。敷地内なら襲われることはありませんから」


 後ろの集団にそう声をかけると、皆慌てたように中に入ってくる。町民の一人が意を決したように二人の前に出てきて頭を下げた。


「魔法師様! 頼む、息子を助けてくれ! 金はなんとか工面する! 魔物が襲ってきたら壁にもなる! 頼む!」

「どこを探したらいいかわからねぇんだ! 魔法師様だって危険だろうが、他に頼れる人がいねぇ、頼む!」


 いなくなった子の父親たちが次々と頭を下げる。町兵の隊長と思われるひげの男も前に出てきた。


「我々からも協力を願う。町からも協力金がいくらか支払われるので、それで手を打ってもらえないだろうか。我々も死力を尽くして剣を振ろう」


 大の男たちに揃って頭を下げられて、エルノーとエリアは顔を見合わせた。黙って頷き合う。


「わかりました。協力しましょう。ですが森へは俺たちだけで入ります。皆さんはここで待っていてください」


 エルノーの言葉にどよめきが走る。

 

「いかに魔法師様とはいえ、それは流石に危険なのではないか?」

「息子の命がかかってんだ、オレも行くぞ! 魔物になんてビビってらんねえよ!」


 魔法師は戦士に守られながら後方から魔法を放つものという認識があるのだろう。それは間違ってはいない。ただしそれは熟練の戦士がいる場合の話だ。素人を連れて行ってはかえって守るものが増えて邪魔になる。

 

「この中に魔物と一人で戦えるって人はいる? いるなら連れて行くけど」


 エリアがそう言って見渡すと、みな俯いて静まり返った。先ほどから風の音や獣の鳴き声がする度にソワソワと落ち着かない様子をみせていた者たちだ。戦えるわけがない。父親たちはともかく、兵士の中には留守番と聞いて明らかにほっとした様子の者もいた。

 

 すっかり黙り込んでしまった男たちに断りを入れて、支度をしに部屋へ戻る。手早く寝間着から着替え、ブーツの紐をしっかりと結ぶ。今は雨は上がっているとはいえ、森の中はぬかるんでいるだろう。できるだけ動きやすい格好にする。防護の腕輪をはめ、腰にはベルトを巻き、魔法薬を持てるだけセットした。加えてエリアは聖銀の髪飾りを、エルノーはムーン鋼のナイフをしっかりと身に着ける。


「エリア、これ」


 エルノーが出してきた赤い薬を一気にあおる。


「どのくらい?」

「五時間」

「朝までね」


 体力増強薬だ。あまり体力のない二人にとって、森歩きをするなら必須の薬である。増強といっても一時的に疲労を感じなくなるだけで、薬が切れた途端一気に身体にダメージが来るため無理は禁物だが。

 しっかりと杖を握りしめ、外へ出る。


「行ってきます。外は寒いので、中に入っていいですよ」

「あたしたち頑張ってくるから! ちゃんと待っててね!」


 正直子どもたちの生存は絶望的だが、努めて明るい声を出す。心配そうな男たちをその場へ残し、エルノーとエリアは森へ向かって駆けた。

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